不思議な島
本文約6,200字 ・ 読了時間 約13分
あらすじ(AIが作成しました)
船の甲板で目覚めた「僕」は、古風な老人に導かれ、不可解な野菜のピラミッドがそびえるサッサンラップ島を見聞する。そこでは住民がひたすら野菜を作り、売買に熱狂する様子が繰り広げられていた。老人の冷笑的な語りを通じ、島に渦巻く人間の愚かさや信仰の滑稽さが描き出される。眠りから覚めた「僕」は、手元の書物と現実の甥の姿に奇妙な残像を感じながら、島での出来事を随筆の着想へと重ねていく。
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僕は籐の長椅子にぼんやり横になっている。目の前に欄干のあるところをみると、どうも船の甲板らしい。欄干の向うには灰色の浪に飛び魚か何か閃いている。が、何のために船へ乗ったか、不思議にもそれは覚えていない。つれがあるのか、一人なのか、その辺も同じように曖昧である。
曖昧と云えば浪の向うも靄のおりているせいか、甚だ曖昧を極めている。僕は長椅子に寝ころんだまま、その朦朧と煙った奥に何があるのか見たいと思った。すると念力の通じたように、見る見る島の影が浮び出した。中央に一座の山の聳えた、円錐に近い島の影である。しかし大体の輪郭のほかは生憎何もはっきりとは見えない。僕は前に味をしめていたから、もう一度見たいと念じて見た。けれども薄い島の影は依然として薄いばかりである。念力も今度は無効だったらしい。
この時僕は右隣にたちまち誰かの笑うのを聞いた。
「はははははは、駄目ですね。今度は念力もきかないようですね。はははははは。」
右隣の籐椅子に坐っているのは英吉利人らしい老人である。顔は皺こそ多いものの、まず好男子と評しても好い。しかし服装はホオガスの画にみた十八世紀の流行である。Cocked hat と云うのであろう。銀の縁のある帽子をかぶり、刺繍のある胴衣を着、膝ぎりしかないズボンをはいている。おまけに肩へ垂れているのは天然自然の髪の毛ではない。何か妙な粉をふりかけた麻色の縮れ毛の鬘である。僕は呆気にとられながら、返事をすることも忘れていた。
「わたしの望遠鏡をお使いなさい。これを覗けばはっきり見えます。」
老人は人の悪い笑い顔をしたまま、僕の手に古い望遠鏡を渡した。いつかどこかの博物館に並んでいたような望遠鏡である。
「オオ、サンクス。」
僕は思わず英吉利語を使った。しかし老人は無頓着に島の影を指さしながら、巧みに日本語をしゃべりつづけた。その指さした袖の先にも泡のようにレエスがはみ出している。