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TORENDIA

貝殻

本文約4,900字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

猫の顛末や親子の再会、あるいは些細な日常の断片など、十五の小品からなる短編集である。東京へ移り住んだものの鼠を捕らなくなった猫の姿や、刑務所から出所し再び隣人の牛を盗む農夫の論理、あるいは修学旅行先で見知らぬ教師に抱き上げられた記憶などを淡々と描く。著者はそれぞれの物語を通じて、人間が抱く微かな違和感や嫉妬、そして滑稽なほどに正直な感情の揺れを多角的な視点から綴り、日常に潜む不可解な真実を浮き彫りにする。

芥川龍之介

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🎧 貝殻 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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一 猫

彼等は田舎に住んでゐるうちに、猫を一匹飼ふことにした。猫は尾の長い黒猫だつた。彼等はこの猫を飼ひ出してから、やつと鼠の災難だけは免れたことを喜んでゐた。

半年ばかりたつた後、彼等は東京へ移ることになつた。勿論猫も一しよだつた。しかし彼等は東京へ移ると、いつか猫が前のやうに鼠をとらないのに気づき出した。「どうしたんだらう? 肉や刺身を食はせるからかしら?[#底本では「?」の後は1字アキ]」「この間Rさんがさう言つてゐましたよ。猫は塩の味を覚えると、だんだん鼠をとらないやうになるつて。」――彼等はそんなことを話し合つた末、試みに猫を餓ゑさせることにした。

しかし、猫はいつまで待つても、鼠をとつたことは一度もなかつた。そのくせ鼠は毎晩のやうに天井裏を走りまはつてゐた。彼等は、――殊に彼の妻は猫の横着を憎み出した。が、それは横着ではなかつた。猫は目に見えて痩せて行きながら、掃き溜めの魚の骨などをあさつてゐた。「つまり都会的になつたんだよ。」――彼はこんなことを言つて笑つたりした。

そのうちに彼等はもう一度田舎住ひをすることになつた。けれども猫は不相変少しも鼠をとらなかつた。彼等はとうとう愛想をつかし、気の強い女中に言ひつけて猫を山の中へ捨てさせてしまつた。

すると或晩秋の朝、彼は雑木林の中を歩いてゐるうちに偶然この猫を発見した。猫は丁度雀を食つてゐた。彼は腰をかがめるやうにし、何度も猫の名を呼んで見たりした。が、猫は鋭い目にぢつと彼を見つめたまま、寄りつかうとする気色も見せなかつた。しかもパリパリ音を立てて雀の骨を噛み砕いてゐた。

二 河鹿

或温泉にゐる母から息子へ人伝てに届けたもの、――桜の実、笹餅、土瓶へ入れた河鹿が十六匹、それから土瓶の蔓に結びつけた走り書きの手紙が一本。

その手紙の一節はかうである。――「この河鹿は皆雄に候。雌はあとより届け候。尤も雌雄とも一つ籠に入れぬやうに。雌は皆雄を食ひ殺し候。」

三 或女の話

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