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TORENDIA

首が落ちた話

本文約7,600字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

偵察の途中で日本騎兵と遭遇した騎兵の何小二は、激戦のさなかに頸に重傷を負い、馬に乗ったまま逃走する。極限の苦痛と死の恐怖の中で、母親の裙子や故郷の風景などの幻影を見たかつての体験を振り返る。後に無頼漢として生きるに至った彼が、再び首を落として命を終えるまでの数奇な運命を、戦地での回想と後年の対話を通じて描く。

芥川龍之介

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上

何小二は軍刀を抛り出すと、夢中で馬の頸にしがみついた。確かに頸を斬られたと思う――いや、これはしがみついた後で、そう思ったのかも知れない。ただ、何か頸へずんと音を立てて、はいったと思う――それと同時に、しがみついたのである。すると馬も創を受けたのであろう。何小二が鞍の前輪へつっぷすが早いか、一声高く嘶いて、鼻づらを急に空へ向けると、忽ち敵味方のごったになった中をつきぬけて、満目の高粱畑をまっしぐらに走り出した。二三発、銃声が後から響いたように思われるが、それも彼の耳には、夢のようにしか聞えない。

人の身の丈よりも高い高粱は、無二無三に駈けてゆく馬に踏みしだかれて、波のように起伏する。それが右からも左からも、あるいは彼の辮髪を掃ったり、あるいは彼の軍服を叩いたり、あるいはまた彼の頸から流れている、どす黒い血を拭ったりした。が、彼の頭には、それを一々意識するだけの余裕がない。ただ、斬られたと云う簡単な事実だけが、苦しいほどはっきり、脳味噌に焦げついている。斬られた。斬られた。――こう心の中に繰返しながら、彼は全く機械的に、汗みずくになった馬の腹を何度も靴の踵で蹴った。

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