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TORENDIA

或恋愛小説

本文約4,600字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

雑誌の主筆に対し、堀川保吉が独自の恋愛観に基づく小説の構想を語る。外交官の妻である妙子が、貧しい音楽家・達雄に抱く複雑な心理と、音楽を愛するのみで彼女に執着しない達雄とのすれ違いを描く。夫との生活や子育てを経て、自らの恋愛を美化し続ける女性の姿を提示し、一般的な恋愛小説の英雄的な描写を批判する。「恋愛至上主義」を掲げる主人公の思想と、それに対する編集者の困惑や反発を軸に物語が進む。

芥川龍之介

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🎧 或恋愛小説 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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ある婦人雑誌社の面会室。

主筆 でっぷり肥った四十前後の紳士。

堀川保吉 主筆の肥っているだけに痩せた上にも痩せて見える三十前後の、――ちょっと一口には形容出来ない。が、とにかく紳士と呼ぶのに躊躇することだけは事実である。

主筆 今度は一つうちの雑誌に小説を書いては頂けないでしょうか? どうもこの頃は読者も高級になっていますし、在来の恋愛小説には満足しないようになっていますから、……もっと深い人間性に根ざした、真面目な恋愛小説を書いて頂きたいのです。

保吉 それは書きますよ。実はこの頃婦人雑誌に書きたいと思っている小説があるのです。

主筆 そうですか? それは結構です。もし書いて頂ければ、大いに新聞に広告しますよ。「堀川氏の筆に成れる、哀婉極りなき恋愛小説」とか何とか広告しますよ。

保吉 「哀婉極りなき」? しかし僕の小説は「恋愛は至上なり」と云うのですよ。

主筆 すると恋愛の讃美ですね。それはいよいよ結構です。厨川博士の「近代恋愛論」以来、一般に青年男女の心は恋愛至上主義に傾いていますから。……勿論近代的恋愛でしょうね?

保吉 さあ、それは疑問ですね。近代的懐疑とか、近代的盗賊とか、近代的白髪染めとか――そう云うものは確かに存在するでしょう。しかしどうも恋愛だけはイザナギイザナミの昔以来余り変らないように思いますが。

主筆 それは理論の上だけですよ。たとえば三角関係などは近代的恋愛の一例ですからね。少くとも日本の現状では。

保吉 ああ、三角関係ですか? それは僕の小説にも三角関係は出て来るのです。……ざっと筋を話して見ましょうか?

主筆 そうして頂ければ好都合です。

保吉 女主人公は若い奥さんなのです。外交官の夫人なのです。勿論東京の山の手の邸宅に住んでいるのですね。背のすらりとした、ものごしの優しい、いつも髪は――一体読者の要求するのはどう云う髪に結った女主人公ですか?

主筆 耳隠しでしょう。

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