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TORENDIA

本所両国

本文約20,900字 ・ 読了時間 約42分

あらすじ(AIが作成しました)

本所界隈の取材を命じられた作者は、かつて住んでいた町を訪れ、震災を経て変貌した風景を目の当たりにする。かつての封建時代の面影を残す大名屋敷や柳の並木は消え、バラックが立ち並ぶ殺伐とした光景に流転の相を見出す。本書は、記憶の中の情景と現在の姿を対比させながら、古き良き本所の面影を辿り、町や人の変化に無常の念を抱く著者の心情を綴る。

芥川龍之介

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大溝

僕は本所界隈のことをスケッチしろという社命を受け、同じ社のO君と一しょに久振りに本所へ出かけて行った。今その印象記を書くのに当り、本所両国と題したのは或は意味を成していないかも知れない。しかしなぜか両国は本所区のうちにあるものの、本所以外の土地の空気も漂っていることは確かである。そこでO君とも相談の上、ちょっと電車の方向板じみた本所両国という題を用いることにした。――

僕は生れてから二十歳頃までずっと本所に住んでいた者である。明治二、三十年代の本所は今日のような工業地ではない。江戸二百年の文明に疲れた生活上の落伍者が比較的多勢住んでいた町である。従って何処を歩いて見ても、日本橋や京橋のように大商店の並んだ往来などはなかった。若しその中に少しでもにぎやかな通りを求めるとすれば、それは僅かに両国から亀沢町に至る元町通りか、或は二の橋から亀沢町に至る二つ目通り位なものだったであろう。勿論その外に石原通りや法恩寺橋通りにも低い瓦屋根の商店は軒を並べていたのに違いない。しかし広い「お竹倉」をはじめ、「伊達様」「津軽様」などという大名屋敷はまだ確かに本所の上へ封建時代の影を投げかけていた。……

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