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TORENDIA

煙草と悪魔

本文約6,200字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

煙草の起源に関する伝説を綴る。天文年間、日本にやって来た悪魔は、フランシス・ザヴイエルに従う伊留満に化けて潜伏し、暇つぶしのために畑で正体不明の植物を栽培する。この植物を日本へ広めようと目論む悪魔に対し、ある牛商人がその正体を突き止めようと画策する。本作は、西洋から渡来した悪魔がもたらしたとされる煙草の歴史的伝説を題材に、人間の欲望と悪魔の誘惑という二面的な主題を描く。

芥川龍之介

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🎧 煙草と悪魔 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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煙草は、本来、日本になかつた植物である。では、何時頃、舶載されたかと云ふと、記録によつて、年代が一致しない。或は、慶長年間と書いてあつたり、或は天文年間と書いてあつたりする。が、慶長十年頃には、既に栽培が、諸方に行はれてゐたらしい。それが文禄年間になると、「きかぬものたばこの法度銭法度、玉のみこゑにげんたくの医者」と云ふ落首が出来た程、一般に喫煙が流行するやうになつた。――

そこで、この煙草は、誰の手で舶載されたかと云ふと、歴史家なら誰でも、葡萄牙人とか、西班牙人とか答へる。が、それは必ずしも唯一の答ではない。その外にまだ、もう一つ、伝説としての答が残つてゐる。それによると、煙草は、悪魔がどこからか持つて来たのださうである。さうして、その悪魔なるものは、天主教の伴天連か(恐らくは、フランシス上人)がはるばる日本へつれて来たのださうである。

かう云ふと、切支丹宗門の信者は、彼等のパアテルを誣ひるものとして、自分を咎めようとするかも知れない。が、自分に云はせると、これはどうも、事実らしく思はれる。何故と云へば、南蛮の神が渡来すると同時に、南蛮の悪魔が渡来すると云ふ事は――西洋の善が輸入されると同時に、西洋の悪が輸入されると云ふ事は、至極、当然な事だからである。

しかし、その悪魔が実際、煙草を持つて来たかどうか、それは、自分にも、保証する事が出来ない。尤もアナトオル・フランスの書いた物によると、悪魔は木犀草の花で、或坊さんを誘惑しようとした事があるさうである。して見ると、煙草を、日本へ持つて来たと云ふ事も、満更嘘だとばかりは、云へないであらう。よし又それが嘘にしても、その嘘は又、或意味で、存外、ほんとうに近い事があるかも知れない。――自分は、かう云ふ考へで、煙草の渡来に関する伝説を、ここに書いて見る事にした。

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