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TORENDIA

セメント樽の中の手紙

本文約2,500字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

発電所の建設現場で働く松戸与三は、コンクリートミキサーにセメントを投入する忙しい作業中に、樽の中から小さな木の箱を見つける。帰宅後に箱を壊すと、中には女工による手紙が収められていた。そこには、破砕機に巻き込まれセメントと化した恋人への思いと、そのセメントがどこで使われるのかを知りたいという切実な願いが記されていた。生活の困窮に沈んでいた与三は、その内容に激しい憤りを感じながら、家族の姿を見つめる。

葉山嘉樹

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🎧 セメント樽の中の手紙 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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松戸与三はセメントあけをやっていた。外の部分は大して目立たなかったけれど、頭の毛と、鼻の下は、セメントで灰色に蔽われていた。彼は鼻の穴に指を突っ込んで、鉄筋コンクリートのように、鼻毛をしゃちこばらせている、コンクリートを除りたかったのだが一分間に十才ずつ吐き出す、コンクリートミキサーに、間に合わせるためには、とても指を鼻の穴に持って行く間はなかった。

彼は鼻の穴を気にしながら遂々十一時間、――その間に昼飯と三時休みと二度だけ休みがあったんだが、昼の時は腹の空いてる為めに、も一つはミキサーを掃除していて暇がなかったため、遂々鼻にまで手が届かなかった――の間、鼻を掃除しなかった。彼の鼻は石膏細工の鼻のように硬化したようだった。

彼が仕舞時分に、ヘトヘトになった手で移した、セメントの樽から小さな木の箱が出た。

「何だろう?」と彼はちょっと不審に思ったが、そんなものに構って居られなかった。彼はシャヴルで、セメン桝にセメントを量り込んだ。そして桝から舟へセメントを空けると又すぐその樽を空けにかかった。

「だが待てよ。セメント樽から箱が出るって法はねえぞ」

彼は小箱を拾って、腹かけの丼の中へ投り込んだ。箱は軽かった。

「軽い処を見ると、金も入っていねえようだな」

彼は、考える間もなく次の樽を空け、次の桝を量らねばならなかった。

ミキサーはやがて空廻りを始めた。コンクリがすんで終業時間になった。

彼は、ミキサーに引いてあるゴムホースの水で、一と先ず顔や手を洗った。そして弁当箱を首に巻きつけて、一杯飲んで食うことを専門に考えながら、彼の長屋へ帰って行った。発電所は八分通り出来上っていた。夕暗に聳える恵那山は真っ白に雪を被っていた。汗ばんだ体は、急に凍えるように冷たさを感じ始めた。彼の通る足下では木曾川の水が白く泡を噛んで、吠えていた。

「チェッ! やり切れねえなあ、嬶は又腹を膨らかしやがったし、……」彼はウヨウヨしている子供のことや、又此寒さを目がけて産れる子供のことや、滅茶苦茶に産む嬶の事を考えると、全くがっかりしてしまった。

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