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TORENDIA

労働者の居ない船

本文約8,900字 ・ 読了時間 約18分

あらすじ(AIが作成しました)

北海道から横浜へ向かう貨物船「第三金時丸」は、腐朽が進み操舵もままならない老朽船である。マニラへの航海中、過酷な労働環境に置かれた水夫が突如としてコレラに罹患する。病の蔓延を恐れる乗組員たちは、次々と発症する仲間を船底の奥深くへと追いやり、ついには船内から労働者が消え去る。船長や機関長のみが残された無人の船は、目的地を失い、海の上をただ彷徨い続けることになる。

葉山嘉樹

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こう云う船だった。

北海道から、横浜へ向って航行する時は、金華山の燈台は、どうしたって右舷に見なければならない。

第三金時丸――強そうな名前だ――は、三十分前に、金華山の燈台を右に見て通った。

海は中どころだった。凪いでると云うんでもないし、暴化てる訳でもなかった。

三十分後に第三金時丸の舵手は、左に燈台を見た。

コムパスは、南西を指していた。ところが、そんな処に、島はない筈であった。

コーターマスターは、メーツに、「どうもおかしい」旨を告げた。

メーツは、ブリッジで、涼風に吹かれながら、ソーファーに眠っていたが、起き上って来て、

「どうしたんだ」

「左舷に燈台が見えますが」

「又、一時間損をしたな」と、メーツは答えて、コムパスを力一杯、蹴飛ばした。

コンパスは、グルっと廻って、北東を指した。

第三金時丸は、こうして時々、千本桜の軍内のように、「行きつ戻りつ」するのであった。コムパスが傷んでいたんだ。

又、彼女が、ドックに入ることがある。セイラーは、カンカン・ハマーで、彼女の垢にまみれた胴の掃除をする。

あんまり強く、按摩をすると、彼女の胴体には穴が明くのであった。それほど、彼女の皮膚は腐っていたのだ。

だが、世界中の「正義なる国家」が連盟して、ただ一つの「不正なる軍国主義的国家」を、やっつけている、船舶好況時代であったから、彼女は立ち上ったのだった。

彼女は、資本主義のアルコールで元気をつけて歩き出した。

こんな風だったから、瀬戸内海などを航行する時、後ろから追い抜こうとする旅客船や、前方から来る汽船や、帆船など、第三金時丸を見ると、厄病神にでも出会ったように、慄え上ってしまった。

彼女は全く酔っ払いだった。彼女の、コムパスは酔眼朦朧たるものであり、彼女の足は蹌々踉々として、天下の大道を横行闊歩したのだ。

素面の者は、質の悪い酔っ払いには相手になっていられない。皆が除けて通るのであった。

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