家庭の幸福
本文約8,300字 ・ 読了時間 約17分
あらすじ(AIが作成しました)
病床でラジオの街頭録音を聞いた作者は、役人の不誠実な「ヘラヘラ笑い」に激しい憎悪を抱く。政治運動には関心がないものの、その官僚的な笑いの背景にあるものに思いを巡らせ、ある一人の役人が帰宅後に愛する家族と幸福な時間を過ごす一方で、仕事では事務的に冷淡な対応をして一人の女を死へ追いやるという物語を構想する。この空想を通じて、家庭という閉ざされた幸福への執着こそが諸悪の根源であるという結論に達する。
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「官僚が悪い」という言葉は、所謂「清く明るくほがらかに」などという言葉と同様に、いかにも間が抜けて陳腐で、馬鹿らしくさえ感ぜられて、私には「官僚」という種属の正体はどんなものなのか、また、それが、どんな具合いに悪いのか、どうも、色あざやかには実感せられなかったのである。問題外、関心無し、そんな気持に近かった。つまり、役人は威張る、それだけの事なのではなかろうかとさえ思っていた。しかし、民衆だって、ずるくて汚くて慾が深くて、裏切って、ろくでも無いのが多いのだから、謂わばアイコとでも申すべきで、むしろ役人のほうは、その大半、幼にして学を好み、長ずるに及んで立志出郷、もっぱら六法全書の糞暗記に努め、質素倹約、友人にケチと言われても馬耳東風、祖先を敬するの念厚く、亡父の命日にはお墓の掃除などして、大学の卒業証書は金色の額縁にいれて母の寝間の壁に飾り、まことにこれ父母に孝、兄弟には友ならず、朋友は相信ぜず、お役所に勤めても、ただもうわが身分の大過無きを期し、ひとを憎まず愛さず、にこりともせず、ひたすら公平、紳士の亀鑑、立派、立派、すこしは威張ったって、かまわない、と私は世の所謂お役人に同情さえしていたのである。
しかるに先日、私は少しからだ具合いを悪くして、一日一ぱい寝床の中でうつらうつらしながら、ラジオというものを聞いてみた。私はこれまで十何年間、ラジオの機械を自分の家に取りつけた事が無い。ただ野暮ったくもったい振り、何の芸も機智も勇気も無く、図々しく厚かましく、へんにガアガア騒々しいものとばかり独断していたのである。空襲の時にも私は、窓をひらいて首をつき出し、隣家のラジオの、一機はどうして一機はどうしたとかいう報告を聞きとって、まず大丈夫、と家の者に言って、用をすましていたものである。