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TORENDIA

窮死

本文約6,200字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

肺を病み極度の困窮状態にある文公は、九段坂のめし屋で人々の施しを受けながら自らの死期を悟る。宿も持たぬ彼は雨の中、偶然知り合いの若者である弁公の住まいを訪ね、一夜の宿を借りる。翌朝、弁公の父が他者との争いで急逝する騒ぎに巻き込まれ、居場所を失った彼は再びあてもなく彷徨うことになる。その後、鉄道線路脇で変わり果てた姿で見つかった一人の身元不明の男の最期を通じ、社会の底辺で生きる者の過酷な現実を描く物語。

国木田独歩

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🎧 窮死 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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九段坂の最寄にけちなめし屋がある。春の末の夕暮れに一人の男が大儀そうに敷居をまたげた。すでに三人の客がある。まだランプをつけないので薄暗い土間に居並ぶ人影もおぼろである。

先客の三人も今来た一人も、みな土方か立ちんぼうぐらいのごく下等な労働者である。よほど都合のいい日でないと白馬もろくろくは飲めない仲間らしい。けれどもせんの三人は、いくらかよかったと見えて、思い思いに飲っていた。

「文公、そうだ君の名は文さんとか言ったね。からだはどうだね。」と角ばった顔の性質のよさそうな四十を越した男がすみから声をかけた。

「ありがとう、どうせ長くはあるまい。」と今来た男は捨てばちに言って、投げるように腰掛けに身をおろして、両手で額を押え、苦しい咳をした。年ごろは三十前後である。

「そう気を落とすものじゃアない、しっかりなさい」と、この店の亭主が言った。それぎりでたれもなんとも言わない、心のうちでは「長くあるまい」と言うのに同意をしているのである。

「六銭しかない、これでなんでもいいから……」と言いさして、咳で、食わしてもらいたいという言葉が出ない。文公は頭の毛を両手でつかんでもがいている。

めそめそ泣いている赤んぼを背負ったおかみさんは、ランプをつけながら、

「苦しそうだ、水をあげようか。」と振り向いた。文公は頭を横に振った。

「水よりかこのほうがいい、これなら元気がつく」と三人の一人の大男が言った。この男はこの店にはなじみでないと見えてさっきから口をきかなかったのである。突き出したのが白馬の杯。文公はまたも頭を横に振った。

「一本つけよう。やっぱりこれでないと元気がつかない。代はいつでもいいから飲ったほうがよかろう。」と亭主は文公がなんとも返事せぬうちに白馬を一本つけた。すると角ばった顔の男が、

「なアに文公が払えない時は、わしがどうにでもする。えッ、文公、だから一ツ飲ってみな。」

それでも文公は頭を押えたまま黙っていると、まもなく白馬一本と野菜の煮つけを少しばかり載せた小ざら一つが文公の前に置かれた。この時やっと頭を上げて、

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