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TORENDIA

右門捕物帖

本文約22,300字 ・ 読了時間 約45分

あらすじ(AIが作成しました)

江戸の町医者・岡三庵から、床の間に血が滴るという不審な相談を受けた名人は、密かに現場を調べる。調べを進めると、この奇妙な現象の裏には、養子を巡る家族の確執と、蛇を愛する娘・千萩の存在があった。親心が引き起こした騒動を知った名人は、当事者たちの仲を取り持ち、家族の絆を修復させるべく奔走する。江戸を舞台に、人間模様の機微と隠された真相を浮き彫りにする捕物帖。

佐々木味津三

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その第三十七番てがらです。

二月の末でした。あさごとにぬくみがまして江戸も二月の声をきくと、もう春が近い。

初午に雛市、梅見に天神祭り、二月の行事といえばまずこの四つです。

初午はいうまでもなく稲荷まつり、雛市は雛の市、梅見は梅見、天神祭りは二十五日の菅公祭、湯島、亀戸、天神と名のつくほどのところはむろんのことだが、お社でなくとも天神さまに縁のあるところは、この二十五日、それぞれ思い思いの天神祭りをするのが例でした。

寺小屋がそうです。

書道指南所がそうです。

それから私塾。

およそ、文字と筆にかかわりのあるところは、それぞれ菅公の徳をたたえ、その能筆にあやかろうという祈念から、筆子、門人、弟子一統残らずを招いて、盛大なところは盛大に、さびれているところはさびれたなりに、それぞれおもいおもいの趣向をこらしながら、ともかくにも、この日一日を楽しむのがそのならわしでした。

「だからいうんだ。理のねえことをいうんじゃねえんですよ。あっしゃ無筆だから、先生も師匠も和尚もねえが、だんなはそうはいかねえ、物がお違いあそばすんだからね。それをいうんですよ! それを!」

やっているのです。

ご番所をさがって帰っての夕ぐれのしっぽりどき……伝六、でんでん、名人、むっつり、ふたりの、これは初午であろうと二十五日であろうと、年じゅう行事であるから……ここをせんどと伝六のやっているのに不思議はないが、やられている名人はとみると、あかりもないへやのまんなかに長々となって、忍びよる夕ぐれを楽しんでいるかのようでした。つまり、それがよくないというのです。

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