右門捕物帖
本文約21,800字 ・ 読了時間 約44分
あらすじ(AIが作成しました)
真夏の江戸、岡っ引きの伝六は亡き兄弟の精霊棚を製作中に、若衆歌舞伎役者を襲う怪奇な幽霊水騒動の相談を持ちかけられる。八丁堀の同心・右門と共に調査に乗り出した二人は、役者が人気を独占するために自作自演を企て、さらに罪をなすりつけた女性を傷つけた事件の真相を突き止める。右門は役者を厳しく糾弾して捕らえさせ、騒動は解決する。事件後、伝六は再び兄弟のために精霊棚の製作へ戻る。
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その二十三番てがらです。
時は真夏。それもお盆のまえです。なにしろ暑い。旧暦だからちょうど土用さなかです。だから、なおさら暑い。
「べらぼうめ、心がけが違うんだ、心がけがな。おいらは日ごろ善根を施してあるんで、ちゃあんとこういうとき、暑くねえようにお天道さまが特別にかばってくださるんだ。というものの――」
いばってみたが、伝六とて暑いのに変わりはないのです。しかし、もうお盆はあと二日ののちに迫っていたので、おりからちょうど非番だったのをさいわい、のこぎり、かんな、のみ、かなづちなぞ大工の七つ道具を、ちんちんと昼日の照りつける庭先に持ち出しながら、しきりと今日さまにおせじを使って仕事にかかりました。というと、いつのまにか伝六が棟梁にでも商売替えをしたように思えるが、不思議なことに三年一日のごとく依然として岡っ引きなのですから、世の中にこのくらい出世のおそい男もまれです。だが、出世はおそくとも、なくて七徳、あって四十八徳、何のとりえもないように思えるこの伝六に、たった一つほめていいとりえがあるのですから、世の中はさらに不思議でした。おしゃべりに似合わず、いたって人情もろいというのがすなわちそれです。この暑いさなかに、ものものしい七つ道具を持ち出して、カンカンゴシゴシと、必死に大工のまねを始めたというのも、実をいうと名誉の最期をとげたあのかわいくて小さかった善光寺辰の新盆が迫ってきたので、お手製の精霊だなをこしらえようというのでした。
「おこるなよ。なにもおめえが小さかったんで、からかうつもりでこんなちっちぇえ精霊だなをこしらえるんじゃねえんだが、しろうと大工の悲しさに、道具がいうことをきかねえんだ。気は心といってな、それもこれもみな兄貴のこのおれが、いまだにおめえのことを忘れかねるからのことなんだ。――だが、それにしても、この精霊だなはちっと小さすぎるかな」
骨組みだけできたのを見ると、なるほど少しちいさい。どうひいきめに見ても、たなの大きさは四寸四角ぐらいしかないのです。