右門捕物帖
本文約22,400字 ・ 読了時間 約45分
あらすじ(AIが作成しました)
正月の二日、服喪中で年賀を欠礼していた右門のもとへ、同僚の敬四郎が嫌味を言いに現れる。折りしも、身寄りを失った遺産を巡る事件が発生し、右門は独自の推理で真相に近づく。あばたの敬四郎の横槍をいなしつつ、囚われていた老婆を救出し、隠された財産目的の犯行をあぶり出す。事件解決後、右門は再び敬四郎へ皮肉な挨拶を残し、伝六とともに江戸の町へと繰り出す。
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1
――その第二十一番てがらです。
事件の起きたのは、年を越して、それも松の内の二日。
「めでたさも中ぐらいなりおらが春」――というのが俳諧寺一茶の句にありますが、中ぐらいでも、下の下の下々であっても、やりくり、七転八倒、夜逃げの名人であろうと、年が明けたとならばともかくもめでたいというよりいいようはない。ましてや、上の上の上々の大名諸侯が、言いようもなくめでたいのはあたりまえなことなので、だからこの二日の日がめでたすぎるそれらお歴々の、三百二十八大名全部が、将軍家へお年賀言上のために総登城する定例なのでした。
一国一城のあるじにしてすでにそうであるから、およそ官途にある者のすべてが、下は上へ、上はそのまた上へと、一年一度の義理を果たしに出かけるのはさらに当然なことなので、すなわち伝六は右門のところへ、右門はお奉行のところへ、――もちろん行くだろうと思ったのに行かないのです。縁ならぬ縁でしたが、目をかけた配下の善光寺辰が死んでみれば、まだ四十九日もたたないうちに、めでたいどころの騒ぎでない。
「服喪中につき、年賀欠礼仕候」
薄い墨で書いた一札を玄関前にぺたりと張りつけておいて、名人は郡内のこたつぶとんにぬくぬくとくるまりながら、もぞりもぞりとなでては探り、探ってはあごをなでて、朝からお組屋敷にとじこもったままでした。
はたから見ると、気になるくらいたいくつそうに見えるのに、当人はいっこうそれでたいくつしていないのですから、頭の中はいったい、どんなゼンマイ仕掛けになっているのか、少し気味がわるいくらいですが、しかし、名人はけっこうそれでいいにしても、納まらないのは伝六です。
「くやしいな……」
ゆくりなくもまた辰のことを思い出したとみえて、ほろりと鼻をつまらせると、初鳴りに鳴りはじめました。
「どう考えてもくやしいな。今さら愚痴をいったって、死んだものがけえるわけじゃねえが、なにもよりによって、おらがの辰を連れていかなくてもいいでしょう。まくらを並べて寝ていたらね、かわいいやつだったじゃござんせんか、なあおい兄貴、と、こんなにいってね、夜中にふいっとくつくつ笑いだしたものだから――」