右門捕物帖
本文約26,100字 ・ 読了時間 約53分
あらすじ(AIが作成しました)
捕物名人の右門は、ある朝、子分である伝六が赤ん坊を抱えて駆け込んできたことで騒動に巻き込まれる。日本橋のたもとに捨てられていた赤ん坊をめぐり、右門は奇妙な小娘を追って、祈祷所へ辿り着く。そこで若後家を罠に嵌めようとしていた行者とお絹を捕縛した右門は、自身の小判を足し、被害者となった若後家へ生活の糧として手渡す。騒動を解決した右門と伝六の姿を通して、江戸の秋の情景を描く。
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その第二十五番てがらです。
事の起きたのは仲秋上浣。
鳶ノ巣山初陣を自慢の大久保彦左があとにも先にもたった一度詠んだという句に、
「おれまでが朝寝をしたわい月の宿」
という珍奇無双なのがあるそうですが、月に浮かれて夜ふかしをせずとも、この季節ぐらい、まことにどうも宵臥し千両、朝寝万両の寝ごこちがいい時候というものはない。やかまし屋で、癇持ちで、年が年じゅう朝早くからがみがみと人の世話をやいていないことには、どうにも溜飲が起こって胃の心持ちがよくないとまでいわれた彦左の雷おやじですらもが、風流がましく月の宿なぞと負け惜しみをいいながら、ついふらふらと朝寝するくらいですから、人より少々できもよろしく、品もよろしいわが捕物名人が、朝寝もまた胆の修業、風流の一つとばかり、だれに遠慮もいらずしきりと寝ぼうをしたとてあたりまえな話です。
だから、その朝もいい心持ちで総郡内のふっくらしたのにくるまりながら、ひとり寝させておくには少し気のもめる臥床の中で、うつらうつらと快味万両の風流に浸っていると、
「ちぇッ、またこれだ。ほんとに世話がやけるっちゃありゃしねえや。ちょっと目を放すと、もうこれだからな。今ごろまでも寝ていて、なんですかよ。なんですかよ、ね、ちょっと、聞こえねえんですかい。ね、ちょっとてたら!――」
遠鳴りさせながらおかまいなくやって来て、二代め彦左のごとくにたちまちうるさく始めたのは、あのやかましい男でした。
「起きりゃいいんだ、起きりゃいいんだ。ね、ちょっと!――やりきれねえな、毎朝毎朝これなんだからな。見せる相手もねえのに、ひとり者がおつに気どって寝ていたってもしようがねえじゃござんせんか。起きりゃいいんですよ、起きりゃいいんですよ。たいへんなことになったんだから、早く起きなせえよ」
「…………」
「じれってえな。だれに頼まれてそんなに寝るんでしょうね。ね、ちょっと! たいへんですよ。たいへんですよ。途方もねえことになったんだから、ちょっと起きなせえよ」