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TORENDIA

海に生くる人々

本文約160,700字 ・ 読了時間 約322分

あらすじ(AIが作成しました)

太平洋を航行する汽船万寿丸では、猛烈な暴風雪の中で船員たちが甲板への浸水を防ぐ危険な作業に従事する。過酷な環境と低賃金、怪我を負っても顧みられない現状に対し、藤原六雄や波田ら労働者は、資本主義制度への反発を強めていく。自然や機械と協力して困難な航海を乗り越えた後、彼らは船長との対立を経て船を降り、警察の留置所へと送られることになる。過酷な労働環境に置かれた船員たちの葛藤と、社会制度との闘いを描く作品である。

葉山嘉樹

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一

室蘭港が奥深く[#「奥深く」は筑摩版では「奥深く広く」]入り込んだ、その太平洋への湾口に、大黒島が栓をしている。雪は、北海道の全土をおおうて地面から、雲までの厚さで横に降りまくった。

汽船万寿丸は、その腹の中へ三千トンの石炭を詰め込んで、風雪の中を横浜へと進んだ。船は今大黒島をかわろうとしている。その島のかなたには大きな浪が打っている。万寿丸はデッキまで沈んだその船体を、太平洋の怒濤の中へこわごわのぞけて見た。そして思い切って、乗り出したのであった。彼女がその臨月のからだで走れる限りの速力が、ブリッジからエンジンへ命じられた。

冬期における北海航路の天候は、いつでも非常に険悪であった。安全な航海、愉快な航海は冬期においては北部海岸では不可能なことであった。

万寿丸甲板部の水夫たちは、デッキに打ち上げる、ダイナマイトのような威力を持った波浪の飛沫と戦って、甲板を洗っていた。ホースの尖端からは、沸騰点に近い熱湯がほとばしり出たが、それがデッキを五尺流れるうちには凍るのであった。五人の水夫は熱湯の凍らぬうちに、その渾身の精力を集めて、石炭塊を掃きやった。

万寿丸は右手に北海道の山や、高原をながめて走った。雪は船と陸とをヴェールをもってさえぎった。悲壮な北海道の吹雪は、マストに悲痛な叫びを上げさせた。

生命のあらゆる危難の前に裸体となって、地下数千尺で掘られた石炭は、数万の炭坑労働者を踏み台にして地上に上がって来た。そして、今、海上では同じく生命の赤裸々な危険に、その全身を船体と共に暴露しつつある、船員の労働によって運送されるのであった。

藤原六雄は、ランプ部屋へはいって、ランプの掃除をしていた。彼は、今年二十八歳のひどくだまりやの、気むずかしやであった。そして、一体彼は何か仕事をしているのか、どうか疑わしいほど、労働がきらいな性のように見えた。彼の職務は倉庫番であった。

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