女仙
本文約940字 ・ 読了時間 約2分
あらすじ(AIが作成しました)
支那の田舎で書生が隣に住む美しい女性を不思議に思っている。ある春の夕暮れ、書生は女性が年老いた木樵りを激しく打ち据える現場に遭遇し、仲裁に入る。年上の者を殴るなという忠告に対し、女性は自分がその木樵りの母親であると告げ、自分は三千六百歳だと明かす。言葉と共に消えた女性の姿を前に、書生は彼女が仙人であったことに気づく。仙人と人間が交錯する不思議なひとときを描く短編である。
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昔、支那の或田舎に書生が一人住んでいました。何しろ支那のことですから、桃の花の咲いた窓の下に本ばかり読んでいたのでしょう。すると、この書生の家の隣に年の若い女が一人、――それも美しい女が一人、誰も使わずに住んでいました。書生はこの若い女を不思議に思っていたのはもちろんです。実際また彼女の身の上をはじめ、彼女が何をして暮らしているかは誰一人知るものもなかったのですから。
或風のない春の日の暮、書生はふと外へ出て見ると、何かこの若い女の罵っている声が聞えました。それはまたどこかの庭鳥がのんびりと鬨を作っている中に、如何にも物ものしく聞えるのです。書生はどうしたのかと思いながら、彼女の家の前へ行って見ました。すると眉を吊り上げた彼女は、年をとった木樵りの爺さんを引き据え、ぽかぽか白髪頭を擲っているのです。しかも木樵りの爺さんは顔中に涙を流したまま、平あやまりにあやまっているではありませんか!
「これは一体どうしたのです? 何もこういう年よりを、擲らないでも善いじゃありませんか!――」
書生は彼女の手を抑え、熱心にたしなめにかかりました。
「第一年上のものを擲るということは、修身の道にもはずれている訣です。」
「年上のものを? この木樵りはわたしよりも年下です。」
「冗談を言ってはいけません。」
「いえ、冗談ではありません。わたしはこの木樵りの母親ですから。」
書生は呆気にとられたなり、思わず彼女の顔を見つめました。やっと木樵りを突き離した彼女は美しい、――というよりも凜々しい顔に血の色を通わせ、目じろぎもせずにこう言うのです。
「わたしはこの倅のために、どの位苦労をしたかわかりません。けれども倅はわたしの言葉を聞かずに、我儘ばかりしていましたから、とうとう年をとってしまったのです。」
「では、……この木樵りはもう七十位でしょう。そのまた木樵りの母親だというあなたは、一体いくつになっているのです?」
「わたしですか? わたしは三千六百歳です。」