号外
本文約5,300字 ・ 読了時間 約11分
あらすじ(AIが作成しました)
銀座の正宗ホールに集う、風変わりな男爵・加藤と彫刻家の中倉ら。戦争を熱望し、古びた号外を愛読する加藤に対し、中倉は彼を「号外」と呼び、その姿を彫像として残すことを提案する。平和な時代に生きる張り合いを失い、戦争の記憶にすがりつく加藤と、そんな彼を観察する仲間たちの交流を通じ、高揚感を失った世相や人間の孤独を描く。
💰 この本を応援する(投げ銭)
ぼろ洋服を着た男爵加藤が、今夜もホールに現われている。彼は多少キじるしだとの評がホールの仲間にあるけれども、おそらくホールの御連中にキ的傾向を持っていないかたはあるまいと思われる。かく言う自分もさよう、同類と信じているのである。
ここに言うホールとは、銀座何丁目の狭い、窮屈な路地にある正宗ホールの事である。
生一本の酒を飲むことの自由自在、孫悟空が雲に乗り霧を起こすがごとき、通力を持っていたもう「富豪」「成功の人」「カーネーギー」「なんとかフェラー」、「実業雑誌の食い物」の諸君にありてはなんでもないでしょう、が、われわれごときにありては、でない、さようでない。正宗ホールでなければ飲めません。
感心にうまい酒を飲ませます。混成酒ばかり飲みます、この不愉快な東京にいなければならぬ不幸な運命のおたがいに取りては、ホールほどうれしい所はないのである。
男爵加藤が、いつもどなる、なんと言うてどなる「モー一本」と言うてどなる。
彫刻家の中倉の翁が、なんと言うて、その太い指を出す、「一本」
ことごとく飲み仲間だ。ことごとく結構!
今夜も「加と男」がノッソリ御出張になりました。「加と男」とは「加藤男爵」の略称、御出張とは、特に男爵閣下にわれわれ平民ないし、平ザムライどもが申し上げ奉る、言葉である。けれどもが、さし向かえば、些の尊敬をするわけでもない、自他平等、海藻のつくだ煮の品評に余念もありません。
「戦争がないと生きている張り合いがない、ああツマラない、困った事だ、なんとか戦争を始めるくふうはないものかしら。」
加藤君が例のごとく始めました。「男」はこれが近ごろの癖なのである。近ごろとは、ポーツマウスの平和以後の冬の初めのころを指さす。
中倉先生は大の反対論者で、こういう奇抜な事を言った事がある。