妖術
本文約10,100字 ・ 読了時間 約21分
あらすじ(AIが作成しました)
電車内で見かけた妖艶な女に心惹かれた舟崎一帆は、彼女の後を追い、浅草の観音堂までたどり着く。そこで再会した女は、観音様の提灯の中が住処だと語り、一帆を前に手品を披露する。扇子を振るうたびに白い蝶が次々と現れ、池の上に舞うなど、不思議な芸を見せた女は、幻のように姿を消す。泉鏡花が描く、現実と幻想の境界が曖昧な世界において、一人の男が遭遇した神秘的な体験と、妖しくも美しい女の姿を綴る。
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一
むらむらと四辺を包んだ。鼠色の雲の中へ、すっきり浮出したように、薄化粧の艶な姿で、電車の中から、颯と硝子戸を抜けて、運転手台に顕われた、若い女の扮装と持物で、大略その日の天気模様が察しられる。
日中は梅の香も女の袖も、ほんのりと暖かく、襟巻ではちと逆上せるくらいだけれど、晩になると、柳の風に、黒髪がひやひやと身に染む頃。もうちと経つと、花曇りという空合ながら、まだどうやら冬の余波がありそうで、ただこう薄暗い中はさもないが、処を定めず、時々墨流しのように乱れかかって、雲に雲が累なると、ちらちら白いものでも交りそうな気勢がする。……両三日。
今朝は麗かに晴れて、この分なら上野の彼岸桜も、うっかり咲きそうなという、午頃から、急に吹出して、随分風立ったのが未だに止まぬ。午後の四時頃。
今しがた一時、大路が霞に包まれたようになって、洋傘はびしょびしょする……番傘には雫もしないで、俥の母衣は照々と艶を持つほど、颯と一雨掛った後で。
大空のどこか、吻と呼吸を吐く状に吹散らして、雲切れがした様子は、そのまま晴上りそうに見えるが、淡く濡れた日脚の根が定まらず、ふわふわ気紛れに暗くなるから……また直きに降って来そうにも思われる。
すっかり雨支度でいるのもあるし、雪駄でばたばたと通るのもある。傘を拡げて大きく肩にかけたのが、伊達に行届いた姿見よがしに、大薩摩で押して行くと、すぼめて、軽く手に提げたのは、しょんぼり濡れたも好いものを、と小唄で澄まして来る。皆足どりの、忙しそうに見えないのが、水を打った花道で、何となく春らしい。
電車のちょっと停まったのは、日本橋通三丁目の赤い柱で。
今言ったその運転手台へ、鮮麗に出た女は、南部の表つき、薄形の駒下駄に、ちらりとかかった雪の足袋、紅羽二重の褄捌き、柳の腰に靡く、と一段軽く踏んで下りようとした。
コオトは着ないで、手に、紺蛇目傘の細々と艶のあるを軽く持つ。
ちょうど、そこに立って、電車を待合わせていたのが、舟崎という私の知己――それから聞いたのをここに記す。