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TORENDIA

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本文約9,900字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

マールブルクで新年を迎えた著者が、ドイツにおけるヘーゲル研究や歴史哲学の現状、精神科学のあり方を論じる。滞在先の学問的な活気に触れ、言葉と存在、歴史的意識の関係について考察を深める。あわせて現地の風景や散歩の折に日本の故郷を回想し、自身の過去の詩を引用しながら、学問への情熱と遠く離れた地での生活を綴る。

三木清

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新年お目出度う存じます。去年はハイデルベルクで迎へた正月を、今年はマールブルクで迎へました。大晦日の夜には悪霊を追払ふと云ふ意味で、昔独逸では戸外に盛んに発砲する習慣があつたさうです。今でも昔気質の人はこの夜十二時が打つと同時に、高い椅子の上から飛び降りると云ひます。新しい年の中へ勢よく飛び込むと云ふ意味ださうです。私は歳晩にあつて数年前に作つたひとつの歌をまた思ひ出しました。

つかのまの熱と光を求めんと象牙の塔を焼きし日もあり      *

日本を出て来る前から、独逸ではヘーゲルの復興が行はれてゐることを私は聞いてゐました。いかにもヘーゲルに関する書物はかなり出てゐます。なるほど大学のゼミナールでは何処でも好んでヘーゲルを用ゐてゐます。しかし私たちを本当にヘーゲルの思想世界へ導いてくれる者はまだ見当らないやうに思ひます。――私にひとつの新しい独逸語を作らせて下さい――それらは凡てかの Hegelrei ではないでせうか。今の独逸でヘーゲルに関する学者としては、知識に於いてはミュンヘンのファルケンハイム、体系的な方面ではフライブルクのエビングハウスが第一流と見做されてゐます。第二線に立つ人々には、クローネル、ノール、ラッソン、ブルンシュテットなどがあります。ヴィンデルバントが『ヘーゲル主義の復興』と云ふ論文を書いたとき、彼はその頃新進気鋭のノールやエビングハウスを頭においてゐたと云はれてゐます。それ以来かなりの歳月は流れてゆきましたが、私たちのヘーゲルはカントがその当時もつたリープマン、ランゲほどの学者をさへもつ幸福にまだ逢つてゐないやうに思ひます。クローネル、エビングハウス、ハルトマンなどが等しくヘーゲルに就いての著述を企ててゐると云ふのも面白い現象です。これらの書物が出来ましたら、私も私たちのヘーゲルに関して纏つたことを書かせて戴きませう。

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