街
本文約18,400字 ・ 読了時間 約37分
あらすじ(AIが作成しました)
一九一七年のロシア革命を経て日本へ渡ったジェルテルスキーは、東京の小さな新聞社で働きながら暮らしていた。ある日、ジェルテルスキーは知人のブーキン夫人から、夫との諍いで家を飛び出したマリーナ・イワーノヴナの面倒を見るよう頼まれる。彼は困惑しつつもマリーナを保護することになり、彼女はダーリヤの家で共同生活を始める。その異国の男女の交流や騒がしい日常を、階下で暮らす日本の女性せきは不穏な目で観察し、密かに追い出すための対策を練る。
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一
一九一七年に、世界は一つの新しい伝説を得た。「ロシア革命」。当時、そのロシアに住んでいた者は、物心づいた子供から、老耄の一つ手前に達した年寄りまで、それぞれ一生の逸話を拾った。逸話は、いかにもこの国風な復活祭の卵のように色つきで、或る者のは白、或るもののは緑、或る者のは真赤だ。
レオニード・グレゴリウィッチ・ジェルテルスキーはやっと商業学校を出たばかりの青年であった。彼の父親は小さい町の工業家で、革命の時、理由あってか、多くの間違いのうちの一つの間違いによってか殺されて、河の氷の下へ突込まれた。ジェルテルスキーは、それから、母親を五日鶏の箱へ詰めた経験、真直自分の額に向けられた拳銃の筒口を張り飛したので、銃玉が二月の樺の木の幹へ穴をあけた陰気な光景などを、彼の逸話として得た。
一九二九年、ジェルテルスキーは彼の東京で二度目の冬を迎えた。勤めている或る週刊新聞社は、赤坂の電車通りに面して建っていた。水色のペンキで羽目板を塗り、白で枠を取った二階建ての粗末なバラックであった。階下が発送部で、階上が編輯室だ。誰かが少し無遠慮に階段を下りると、室じゅうが震えるその二階の一つの机、一台のタイプライターを、ジェルテルスキーは全力をつくして手に入れたのであった。
薄曇りの午後、強い風が吹くごとに煙幕のような砂塵が往来に立った。窓硝子がガタガタ鳴った。洋袴のポケットへ両手を突こみ、社長が窓から外を眺めていた。
「フッ! 何という埃だ。――こんなやつあニガリ撒いた位じゃ利かないもんかな」
「――…………」