二重心臓
本文約65,200字 ・ 読了時間 約131分
あらすじ(AIが作成しました)
帝都の呉服橋劇場所有主である轟九蔵が、大森の自宅にて鋭利な紙切ナイフで刺殺される。発見時、保護者である女優の天川呉羽が復讐を誓うが、犯人の目星はつかない。轟はかつて各地を遍歴し、株式で巨万の富を築いた人物だが、その前身を知る者はいない。また、呉羽をスターに据えた劇場の経営は不振に陥り、深刻な財政難の中にあった。事件の裏には何が隠されているのか。警察による捜査が続く中、複雑に絡み合う人間関係や秘密が次第に浮上し始める。
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不明の兇漢に
探偵劇王刺殺さる
孤児となった女優天川呉羽哭いて復讐を誓う
秘密を孕む怪悲劇
市内大森区山王×××番地轟九蔵氏(四四)は帝都呉服橋電車通、目貫の十字路に聳立する分離派式五層モダン建築、呉服橋劇場の所有主、兼、日本最初の探偵恐怖劇興行者、兼、現代稀有の邪妖劇名女優、天川呉羽嬢の保護者として有名であったが、昨三日(昭和×年八月)諾威公使館に於ける同国皇帝誕辰の祝賀莚に個人の資格を以て列席後、大森山王×××番地高台に建てられたる同じく分離派風の自宅玄関、応接間に隣る自室に於て夜半まで執務中、デスク前の廻転椅子の中で、平生同氏が机上にて使用していた鋭利な英国製双刃の紙切ナイフを以て、真正面より心臓部を刺貫され絶命している事が、今朝十時頃に到って発見された。急報により東京地方裁判所より貝原検事、熱海予審判事、警視庁の戸山第一捜索課長以下鑑識課員、大森署より司法主任綿貫警部補以下警察医等十数名現場に出張し取調を行ったが、発見者である同家小間使市田イチ子の報告により真先に死骸の傍へ駈付けた天川呉羽嬢が慟哭して復讐を誓ったにも拘わらず、犯人の目星容易に附かず。目下同邸を捜索本部として全力を挙げて調査中である。