骸骨の黒穂
本文約14,000字 ・ 読了時間 約29分
あらすじ(AIが作成しました)
明治二十年頃、筑前直方の居酒屋で主人の藤六が急死する。店には持ち主不明の頭蓋骨が祀られていた。後日、甥と名乗る銀次が現れ店を引き継ぐが、その裏では、藤六の娘であるお花による復讐劇や、銀次が関与する組織的な暗闘が渦巻いていた。本作は、警察署内で発生した奇妙な事件を通じ、独特の道徳観を持つ者たちが織りなす不可解な顛末を描く。
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まだ警察の仕事の大ザッパな、明治二十年頃のこと……。
人気の荒い炭坑都市、筑前、直方の警察署内で起った奇妙な殺人事件の話……。
煤煙に蔽われた直方の南の町外れに、一軒の居酒屋が在った。周囲は毎年、遠賀川の浸水区域になる田圃と、野菜畑の中を、南の方飯塚に通ずる低い堤防じみた街道の傍にポツンと立った藁葺小舎で、型の如く汚れた縄暖簾、軒先の杉葉玉と「一パイ」と染抜いた浅黄木綿の小旗が、町を出外れると直ぐに、遠くから見えた。
中に這入ると居間兼台所と土間と二室しかない。その暗い三坪ばかりの土間に垢光りする木机と腰掛が並んで右側には酒樽桝棚、左の壁の上に釣った棚に煮肴、蒲鉾、するめ、うで蛸の類が並んで、上り框に型ばかりの帳場格子がある。その横の真黒く煤けた柱へ「掛売一切御断」と書いた半切が貼って在るが、煤けていて眼に付かない。
主人は藤六といった六十がらみの独身者の老爺で、相当無頼たらしい。黥を背負っていた。色白のデップリと肥った禿頭で、この辺の人間の扱い方を知っていたのであろう。坑夫、行商人、界隈の百姓なぞが飲みに来るので、一パイ屋の藤六藤六といって人気がよかった。巡査が茶を飲みに立寄ったりすると、取っときの上酒をソッと茶碗に注いだり、顔の通った人事係が通ると、追いかけて呼び込んで、手造りの濁酒の味見をしてもらったりした。
この藤六老爺には妙な道楽が一つあった。それは乞食を可愛がる事で、どんなにお客の多い時分でも、表口に突立って這入らない人間が在ると、藤六は眼敏く見付けて、眼に立たないように何かしら懐中から出してやって立去らせるのであった。立去るうしろ姿を見ると老人、女、子供は勿論のこと血気盛んな……今で云うルンペン風の男も交っていた。