笑われた子
本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
将来の進路を巡って家族から議論される少年、吉。ある夜、夢の中で正体不明の大きな顔に嘲笑される体験をした吉は、学校の習字の時間に怪しげな顔の絵を描くようになる。その後、吉は密かに屋根裏で木彫の仮面作りを始める。姉に見つかり父親の手に渡ったその仮面は、皮肉な笑みを浮かべていた。のちに下駄屋となった吉は、長年店に飾っていたその仮面を遂に破壊するが、断片から新たな創作の着想を得て満足気な表情を浮かべる。
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吉をどのような人間に仕立てるかということについて、吉の家では晩餐後毎夜のように論議せられた。またその話が始った。吉は牛にやる雑炊を煮きながら、ひとり柴の切れ目からぶくぶく出る泡を面白そうに眺めていた。
「やはり吉を大阪へやる方が好い。十五年も辛抱したなら、暖簾が分けてもらえるし、そうすりゃあそこだから直ぐに金も儲かるし。」
そう父親がいうのに母親はこう言った。
「大阪は水が悪いというから駄目駄目。幾らお金を儲けても、早く死んだら何もならない。」
「百姓をさせば好い、百姓を。」
と兄は言った。
「吉は手工が甲だから信楽へお茶碗造りにやるといいのよ。あの職人さんほどいいお金儲けをする人はないっていうし。」
そう口を入れたのはませた姉である。
「そうだ、それも好いな。」
と父親は言った。
母親だけはいつまでも黙っていた。
吉は流しの暗い棚の上に光っている硝子の酒瓶が眼につくと、庭へ降りていった。そして瓶の口へ自分の口をつけて、仰向いて立っていると、間もなくひと流れの酒の滴が舌の上で拡がった。吉は口を鳴らしてもう一度同じことをやってみた。今度は駄目だった。で、瓶の口へ鼻をつけた。
「またッ。」と母親は吉を睨んだ。
吉は「へへへ。」と笑って袖口で鼻と口とを撫でた。
「吉を酒やの小僧にやると好いわ。」
姉がそういうと、父と兄は大きな声で笑った。
その夜である。吉は真暗な涯のない野の中で、口が耳まで裂けた大きな顔に笑われた。その顔は何処か正月に見た獅子舞いの獅子の顔に似ているところもあったが、吉を見て笑う時の頬の肉や殊に鼻のふくらはぎまでが、人間のようにびくびくと動いていた。吉は必死に逃げようとするのに足がどちらへでも折れ曲がって、ただ汗が流れるばかりで結局身体はもとの道の上から動いていなかった。けれどもその大きな顔は、だんだん吉の方へ近よって来るのは来るが、さて吉をどうしようともせず、何時までたってもただにやりにやりと笑っていた。何を笑っているのか吉にも分からなかった。がとにかく彼を馬鹿にしたような笑顔であった。