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TORENDIA

灰燼十万巻

本文約11,300字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

十二月十日、丸善が火災で焼失したとの報を受け、駆けつけた著者は、灰燼と化した店内の無惨な光景を目の当たりにする。商品の書籍や美術書は日本の文明発展に不可欠な知識の糧であり、それが失われたことは文化の損失であると著者は深い感慨にふける。周囲が見舞客の喧騒や新聞記者への対応で騒然とする中、焼跡で途方に暮れる店員や惨状を前にして、西洋知識の供給が不十分な日本における書籍の重要性と、失われた文献への惜別の念を綴る。

内田魯庵

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十二月十日、珍らしいポカ/\した散歩日和で、暢気に郊外でもきたくなる天気だったが、忌でも応でも約束した原稿期日が迫ってるので、朝飯も匆々に机に対った処へ、電報!

丸善から来た。朝っぱらから何の用事かと封を切って見ると、『ケサミセヤケタ。』

はて、解らん。何の事ッたろう。何度読直しても『今朝店焼けた』としか読めない。金城鉄壁ならざる丸善の店が焼けるに決して不思議は無い筈だが、今朝焼けるとも想像していないから、此簡単な仮名七字が全然合点めなかった。

且此朝は四時半から目が覚めていた。火事があったら半鐘の音ぐらい聞えそうなもんだったが、出火の報鐘さえ聞かなかった。怎うして焼けたろう? 怎うしても焼けたとは思われない。

暗号ではないかとも思った。仮名が一字違ってやしないかとも思った。が、怎う読直しても、ケサミセヤケタ!

すると何となく、『焼けそうな家だった』という心持がして、急いで着のみ着のまゝの平生着で飛出した。

呉服橋で電車を降りて店の近くへ来ると、ポンプの水が幾筋も流れてる中に、ホースが蛇のように蜒くっていた。其水溜の中にノンキらしい顔をした見物人が山のように集っていた。伊達巻の寝巻姿にハデなお召の羽織を引掛けた寝白粉の処班らな若い女がベチャクチャ喋べくっていた。煤だらけな顔をした耄碌頭巾の好い若い衆が気が抜けたように茫然立っていた。刺子姿の消火夫が忙がしそうに雑沓を縫って往ったり来たりしていた。

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