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TORENDIA

人相見

本文約2,800字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

著者、戸川残花、坪内逍遥の三人は、ある人相見を訪れる。数寄屋橋の教会関係者から紹介されたその相者は、天眼鏡を用いて入念に顔の各所を検分する。坪内は貴相と評され、著者は海外渡航を言い当てられるなど、それぞれが鋭い観察眼に驚かされる。最後に、人相見を冷やかそうとした残花に対し、相者は身体の特徴を指摘して一喝し、翻弄する。この体験を通じ、三人は人相見の不思議な洞察力や、その後の奇妙な交流について綴る。

内田魯庵

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🎧 人相見 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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占ひ、人相、方角、気にしだしたら際限が無い。朝から晩まで易者、人相、方位家と駈けずり廻つても追付かない。が、中には道楽で、何にも見て貰う事も無いのにソコラ中へ冷かしに行くものがある。私の亡夫なぞは道楽の方で、能く出掛けては見て貰つたが、誰のは筮竹の揉み方が勿体振つてるとか、算木の置き方が巧者だとか、そんな事ばかり云つて、肝腎占なつて貰つた事はケロリと忘れて念頭に無かつた。其頃(明治の初年)は芝の石竜子(先々代)や馬道の千枝田(?)が名人で、其前に坐ると直ぐ何を見て貰ひに来たかを看抜いたさうだ。私の父が千枝田へ行つた時、坐るか座らない中に『お前は冷かしに来たんだナ、帰れ/\ツ。』と一喝されて縮み上つたさうだ。

だが、易者も中々理詰めな事を云ふ。十七八歳の頃、退屈※[#「冫+俊のつくり」、U+205D5、54-10]ぎに近所で評判の占ひに見て貰つた事があるが、先生厳べらしい顔をして易を立て、軈て咳払ひして曰く、アンタは哲学者志望だナ、でなければ実業家だナ、と。成程人間の方向を荒つぽく二分したら大抵此の二つのドツチかに収まつて了う。先生再び咳一咳して曰く、アンタは何をやつても成功する、勉強なさい、天下に名を揚げる事が出来る、と安国寺瓊慶もどきに三世を看透したやうな顔をして更に一転語を下して曰く、だが怠けちやイケマセンぞ、怠けると何にも出来ませんぞ。成程理詰めだ。小学校の修身読本はチヤンと教へてゐる。

三十年も前の話、戸川残花がヒヨツコリやつて来て曰く、数寄屋橋外に頗る上手な人相見がある、百発百中で数寄屋橋教会の会員は皆信じてゐるんで坪内君と一緒に実験に出掛ける筈になつてるが、君も一緒に行かないかといふ話で、約束の日を打合はして当日三人して出掛けた。坪内君はドウいふツモリであつたか知らぬが、残花は性来ミスチツクの好きな心霊信仰の男で占ひ人相は何より好物、見て貰はない中から信心肝に銘じてゐたらしい。

赤煉瓦の小さな板木師の家で、人相見の看板も何も出てゐない横の格子戸を排けて、残花が数寄屋橋教会の誰それからの紹介で上つたといふと直ぐ慇懃に二階に通された。

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