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TORENDIA

続獄中記

本文約24,200字 ・ 読了時間 約49分

あらすじ(AIが作成しました)

独房で生活する囚人が、雑居房における囚人同士の恋にまつわる争いや、自身の監獄内での体験を綴る。著者自らの経験や看守、死刑執行人、教誨師といった人物との交錯を通して、獄中の過酷な現実や人間模様、そして監獄という閉ざされた空間における特有の人間心理を淡々と描き出す随筆である。

大杉栄

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畜生恋

僕はいつも独房にばかりいて、雑房の方のことはよく知らない。雑房というのは、詳しく言えば雑居房だ。六人も八人も十人も、あるいはもっと多くの囚人が六畳敷か八畳敷かの一室にとじ籠められている。定員四名、現在十二名、というような札が、監房の入口にかけられてあるのも珍らしくはない。

多くは同じ性質の犯罪、たとえば泥棒は泥棒と、詐偽は詐偽と一緒に置かれて、数カ月乃至数カ年の間、仲よく泥棒や詐偽の研究をしている。実際みなずいぶん仲がいい。しかしその間にも、他のどこででもあるように、よく喧嘩がある。時としては殺傷沙汰にまでも及ぶ。が、その喧嘩のもとは、他の正直な人々の間のようには、欲得ではない。そのほとんどすべてが恋のいきさつだ。

ちょっと色の生っ白い男でもはいって来れば、みんなして盛んにちやほやする。まったくの新入りでも、監房や工場のいろんな細かい規則に、少しもまごつくことはない。なにかにつけて、うるさいほど丁寧に、よく教えてくれる。庇ってもくれる。みんなは、ただそれだけのことでも、どれほど嬉しいのか知れない。

こうしてみんなが、若い男のやさしい眼つきの返礼に、何ものにも換え難いほどの喜びを分ち合っている間は無事だ。が、それだけでは、満足のできない男が出て来る。その眼の返礼を独占しようとする男が出て来る。平和が破れる。囚人の間の喧嘩というのは、ほとんどみな、直接間接にこの独占欲の争いにもとづく。これは世間の正直な人々の色恋の争いと何の変りもない。

どこの監獄の囚人の間にも、この種の色情はずいぶん猛烈なものらしい。

もっとも、これだとて、決して囚人特有の変態性欲ではない。女っ気のない若い男の寄宿舎なぞにはどこにでもあることだ。現に僕は、陸軍の幼年学校で、それが知れればすぐに退校されるという危険をすら冒して、忠勇なる軍人の卵どもが、ずいぶん猛烈にこの変態性欲に耽っているのを見た。はなはだお恥かしい次第ではあるが、僕もやはりその仲間の一人だった。

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