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TORENDIA

不必要な誠実論

本文約1,400字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

『文芸春秋』四月号の文芸時評を巡る往復書簡の形式をとる論考。かつて実際運動に携わっていた人々が文学活動へ転じた際の未熟さについて論じた時評に対し、ある作家から寄せられた反論を受ける。本書は、作家が自身の誠実さや情熱を証明しようとする姿勢や、過去の文学運動が抱えていた未熟さの捉え方について、歴史的背景を交えつつ応答する。個人の誠実さの競い合いではなく、作家としての生き方を通じて存在を示すべきであるという持論を展開する。

宮本百合子

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🎧 不必要な誠実論 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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『文芸春秋』四月号にのった文芸時評に対するあなたの御感想を拝見しました。別な作者の小説「希望館」についての感想を敷衍しつつ、嘗て或る時期に、実際運動をしていた人々が文学の仕事に移って来て今日示している或る種の文学活動に向って感じられたいろいろの疑を私はその時評の中に述べた。それについてあなたの御感想が書かれているわけです。

あなたが、一人の作家の主観として、自身が決してその時評に云われていたような作家の仕事への過小評価、仕事への自覚、誠実、情熱の不足をもって仕事はしておらぬ、そういう表現はうけがえぬ、と云われる場合、私はこういう場処で、広い意味では共通なものとして示されているあなたの作家としての公の言葉を、ああこうと忖度する必要は感じません。

しかしながら、一人の作家としての誠意、努力がどのように正当に高く評価されたとしても、或る文学運動が或る時期にその総体の中に持っていた未熟さというものは、やはり客観的には目に映るものであるし、とりあげられるのが自然であろうと思います。

嘗て別な分野で働いていた人々が文学的活動で示す多くの疑問を与える点を、「あんな男が運動の指導者であったのだから」と驚くことから掘下げてゆくべきであり、原因は単に昔の文化主義的なものの観方にあるのではないというあなたの意見について、私はこう思います。当時の歴史の若さ、全体として経験の未熟さこそが、貴方の云われる「あんな男」を、一応は指導者めいた位置にもおいたのであろうし、同時に、文学についての理解においても、その若さ未熟さから避け難い文化主義を生んだのであったろう、と。

あんな男が云々というあなたの言葉は、空中を切る鞭のような響きを立てる云いかたかもしれないが、私は歴史というものに対してもっと嗜虐的でない感情を抱いております。私たち共通の未熟さというものについては、あなたもよく御承知のとおり、一人の女としても種々思い深めざるを得ない事情に生きているのですから。

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