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TORENDIA

空中漂流一週間

本文約17,100字 ・ 読了時間 約35分

あらすじ(AIが作成しました)

帝都防衛飛行隊の六条少尉は、戦闘で片腕を失いながらも警防団の監視班として気球による任務に就く。ある夜、気球内に敵兵キンチャコフが侵入するが、六条は格闘の末に相手を制圧する。その後、漂流するゴンドラの中で二人は極限状態の共同生活を送り、やがて気球は当初の離陸地点へと帰還する。本作は、戦時下の特異な状況下で繰り広げられる二人の遭遇と、気球の空中漂流を経て生還するまでの出来事を描く。

海野十三

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「火の玉」少尉

「うーん、またやって来たか」

と、田毎大尉は、啣えていた紙巻煙草をぽんと灰皿の中になげこむと、当惑顔で名刺の表をみつめた。前には当番兵が、渋面をつくって、起立している。

ここは帝都に近い××防衛飛行隊本部の将校集会所だった。

「ほう、大尉どの。誰がやって来たのでありますか」

一週間ほど前に、この飛行隊へ着任したばかりの戸川中尉が、電話帳を繰る手を休め、上官の方に声をかけた。

「うむ、例の『火の玉』少尉が、またやって来たのだ」

「えっ、『火の玉』少尉?」

といって、戸川中尉は眉を高くあげ、

「ああ六条のことですな。あの六条のやつは、こっちにいましたか」

戸川中尉は、少年のように眼をかがやかせ、入口の方をふりかえった。しかしそこには、誰の影も見えなかった。

そもそもこの「火の玉」少尉とよばれる六条壮介と戸川中尉とは、同期生だったのだ。そして嘗ては、ソ満国境を前方に睨みながら、前進飛行基地のバラックに、頭と頭とを並べて起伏した仲だった。

この二人は、無二の仲よし戦友だったけれど、二人の性格は全くあべこべだった。戸川中尉が飛行将校にもってこいの細心で沈着な武人であるのに対し、六条の方はその綽名からでも容易に察せられるごとく、満身これ戦闘力といったような感じのする頗る豪快な将校だった。それで二人は、よく仲のよい悪口を叩きあったものだ。

「なんだ、貴様は。貴様みたいに、数値ばかり気にやんでいると、数値以上の勝利をあげることなんかできやせんぞ」

と六条壮介がからかえば、戸川は戸川で、

「莫迦をいうな。貴様みたいに、戦闘をはじめる途端に数値のことを忘れてしまうようじゃ、どうせ碌でもない敵兵に横腹を竹槍でぶすりとやられるあたりが落ちさ」

と、やりかえすのであった。しかしその実、この二人の将校は、互いに相手の長所を尊敬しあっていたのだ。

真逆この戸川の言葉が讖をなしたわけでもなかろうが、六条壮介のうえにとつぜん不幸な事件が降って来て、彼は第一線を退かなければならないこととなった。

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