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TORENDIA

人間灰

本文約16,200字 ・ 読了時間 約33分

あらすじ(AIが作成しました)

海抜一千三百メートルの高原に建つ空気工場で、雇人が次々と奇怪な失踪を遂げる。強い西風が吹く夜に起こるこの連続失踪事件に対し、所轄の警察署長は捜査を進める。工場主の赤沢博士、若き妻珠江、そして青年技師の青谷二郎が疑われる中、湖上から人間灰を撒くという凄惨な屍体処理の手法が明らかになる。潜入していた私立探偵の帆村荘六が真相を暴き、犯人の変態的な殺人計画と、隠されていた珠江夫人の行方が解き明かされていく。

海野十三

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赤沢博士の経営する空気工場は海抜一千三百メートルの高原にある右足湖畔に建っていた。この空気工場では、三年ほどの間に雇人がつぎつぎに六人も、奇怪なる失踪をした。そして今に至るも、誰一人として帰って来なかった。

ずいぶん永いことになるので、多分もう誰も生きていないだろうと云われているが、ここに一つの不思議な噂があった。それは彼の雇人が失踪する日には、必ず強い西風が吹くというのである、だから雇人たちは、西風を極度に恐れた。

丁度この話の始まる日も、晩秋の高原一帯に風速十メートル内外の大西風が吹き始めたから、雇人たちは、素破こそとばかり、恐怖の色を浮べた。夜になると、彼等は後始末もそこそこに、一団ずつになって工場を飛び出した。彼等はこんな晩、工場内の宿舎に帰って蒲団を被って寝る方が恐ろしかった。皆云いあわせたように、隣り村の居酒屋へ、夜明かしの酒宴にでかけていった。

後に残されたのは、工場主の赤沢博士と、青谷二郎という青年技師と、それから二人の門衛だけになった。その外に、構内別館――そこは赤沢博士の住居になっていた――に博士夫人珠江子という、博士とは父娘にしかみえぬ若作り婦人がたった一人閉じ籠っていた。

青谷技師も午後八時にはいつものように、トラックを運転して帰っていった。赤沢博士の自室には、まだ永く灯りがついていた。しかし十時半になると、その灯りも消えて、本館の方は全く暗闇の中に沈んでしまった。門衛も小屋の中に引込んでしまい、あとは西風がわが者顔に、不気味な音をたてて硝子戸や柵を揺すぶっていた。湖畔の悪魔は、西風に乗って、また帰ってきたのであろうか。

その夜も余程更けた。

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