人造人間事件
本文約14,500字 ・ 読了時間 約30分
あらすじ(AIが作成しました)
秋雨の夜、理学士の帆村荘六はサンタマリア病院の玄関で、怯える美女ウララと外人医師ジョンが交わす殺人を示唆する会話を耳にする。その後、竹田博士の研究所で起きた博士殺害事件の現場を訪れた帆村は、捜査陣と共に不可解な動きを見せる人造人間と対峙する。帆村は犯人がラジオドラマの放送を通じて人造人間を遠隔操作したと見抜き、犯行を画策した馬詰丈太郎の巧妙なトリックを解き明かして事件の全貌を明らかにする。
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理学士帆村荘六は、築地の夜を散歩するのがことに好きだった。
その夜も、彼はただ一人で、冷い秋雨にそぼ濡れながら、明石町の河岸から新富町の濠端へ向けてブラブラ歩いていた。暗い雨空を見あげると、天国の塔のように高いサンタマリア病院の白堊ビルがクッキリと暗闇に聳えたっているのが見えた。このあたりには今も明治時代の異国情調が漂っていて、ときによると彼自身が古い錦絵の人物であるような錯覚さえ起るのであった。
通りかかった火の番小屋の中から、疳高い浪花節の放送が洩れてきた。声はたいへん歪んでいるけれど、正しく蒼竜斎膝丸の「乃木将軍墓参の旅」である。時計の針は九時を廻って、九時半の方に近づきつつあるものらしい。さっき喫茶店リラで紅茶を啜っていたときには、八時からの演芸放送のトップとして、ラジオドラマ「空襲葬送曲」が始まったばかりのところだったが。
葬送曲だの墓参だのと不吉なものばかり並べて、放送局も今夜はなんという智慧のないプログラムを作ったのだろう。然し不吉なものが盛んに目につく時は、その源の必ず大きな不吉が存在しているものだ。帆村はそれを思ってドキンとした。
(――なにか、血腥い事件が起ったのだろう。殺人事件か、それとも戦争か)
さっき喫茶店リラで、紅茶を啜りながら聴くともなしに聴いたラジオドラマは、将来戦を演出しているものだった。東京市民は空襲警報にしきりと脅え、太平洋では彼我の海戦部隊が微妙なる戦機を狙っているという場面であった。戦争は果して起るのであろうか。
帆村理学士は濠端に出た。冷い風が横合からサッと吹いてきた。彼はレーンコートの襟をしっかり掻きあわせ、サンタマリア病院の建物について曲った。
病院の大玄関は、火葬炉の前戸のように厳めしく静まりかえり、何処かにシャーリー・テンプルに似た顔の天使の微かな寝息が聞えてくるような気がした。道傍には盗んでゆかれそうな街灯がポツンと立っていて、しっぽり濡れたアスファルトの舗道に、黄色い灯影を落としていた。
そのときだった。一台の自動車が背後の方から勢よく疾走してきた。帆村は泥しぶきをかけられることを恐れて、ツと身体を病院の玄関脇によせた。