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TORENDIA

山雀

本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

六甲山で山雀の雛を拾った老紳士は、その芸を仕込もうと意気込むが、育った小鳥は頬白であった。また、気性の激しい山崎老人は、野山で見つけた山雀の巣を商売人に奪われそうになり、鉄砲を向けてこれを阻止する。小鳥を懐に入れて持ち帰った老人は、無事に育て上げた後に全て山へと逃がしてしまう。二つのエピソードを通じ、小鳥への執着や関わり方、そしてそれに対する人々の異なる姿勢を対照的に描き出す。

薄田泣菫

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🎧 山雀 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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1 / 3

一

私の近くにアメリカ帰りの老紳士が住んでをります。その人が今年の春六甲山へ登つて、その帰りにあたりの松林で小鳥の巣を見つけました。巣にはやつと羽が生えかけたばかしの雛が四羽をりました。雛は老紳士を見ると、口を一ぱいに開けて、ちいちいと鳴きました。

「可愛い奴だな。俺の顔を見ると、あんなにものを欲しがつてゐるよ」

老紳士は何か持ち合せはないかしらと袂をさぐつてみましたが、あいにく巻煙草の箱しか見つかりませんでした。老紳士は大の煙草好きでしたが、小鳥であり、おまけに未成年者であるこの相手に、煙草をすすめるわけにもゆきませんので、もどかしさの思ひをしながらも、黙つて見てをりました。

「可愛い奴だ。何鳥かしら」老紳士は覗き込むやうにして雛の毛をあらためました。「山雀によく似てゐるな。山雀かい、お前たちは」

巣の中の小鳥は、それを聞くと、一斉に頭をもちあげて、ちいちいと鳴きました。

「やつぱし山雀だ」

さう思ふと同時に、その山雀にいろんな藝を仕込む面白さが老紳士の心を捉へました。親鳥が居合せないのを仕合せに、巣ぐるみ雛を懐中にねぢ込んで、逃げるやうにして山を下りてきました。そして道々、

「もうこんなに大きくなつたんだから、餌付けさへうまくやつたら、きつと育つだらうて」

と言訳らしく、独りごとをいひました。

小鳥は四羽のうち、三羽までは死にましたが、残つた一羽は餌づけもうまくいつて、無事に育ちました。だが、困つたことには、山雀だと思つて育てた小鳥が、だんだん大きくなるにつれて、毛いろから恰好までそつくり頬白に変つてきました。老紳士はそれを見ながら、毎日のやうに溜息をついてゐます。

「頬白だつていいぢやありませんか。山雀とは比べものにならない好い声で、

一筆啓上仕りそろ……

と、鳴きますからね」

といつて、慰めますと、老紳士は浮かぬ顔をして、

「いくら好い声で鳴いたところで、頬白だつたら山雀のやうにこつちの思ひ通りに藝を仕込むわけにはゆきませんからね」

といつてゐます。老紳士は閑にまかせて自分の好みを、小さな鳥の上に一つ残しておきたいらしく見えました。

二

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