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TORENDIA

水中の友

本文約3,600字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

太宰治の作品群の解説を執筆する著者が、対面したことのない故人に対する追悼と、独自の太宰観を綴る論考である。世間に流布する変質や欲望といった一面的な評価に異を唱え、津軽の風土に根ざした「清き憂ひ」が作品の根底にあると論じる。文学的作為が現実を追い越していく危うい生活のあり方や、健康を削りながら文学を追求し続けた勉強家としての姿を慈しみつつ、その文学的経歴を振り返りながら故人を悼んでいる。

折口信夫

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🎧 水中の友 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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いつまでも ものを言はなくなつた友人――。

もつとも 若かつたひとり――。

たゞの一度も 話をしたことのない

二三行の手紙も 彼に書いたことのない私――

併し 私の友情を しづかに 享けとつてゐてくれた彼を 感じる。

――友人の死んだ時

私は、嵐の聲を聞いた。

若い世間は、手をあげて迎へるやうに

はなやかに その死を讚へた――。

老成した世間は、もみくしやになつた語で、

澁面を表情した――。

一等高さの教養を持つた人だけが――、

何げない貌で

たゞ その姿を 消ゆるにまかせるだらう――。

さう言ふ この國の爲來りを

彼は信じて 安らかになつたに違ひない。

若い友人は 若いがゆゑの

夢のやうな業蹟を 殘して死んだ。

こればかりは、

若くて過ぎた人なるが故の美しさだ と言ふ思ひが――、

年のいつた私どもの胸に 沁む――。

何げない貌で 死んで行つたが――

ほんたうに 遠く靜かになつた人

もういつまでも ものなんか言はうとしないでもよい。

私のを温める ほのかな光りを よこしてくれ

*     *     *

私などが、太宰君の本の解説を書いて見たところで何の意味もないことである。故人作物の批評や、案内の類の書き物は、手近いところに幾らもあるのだから、そんな點では、私如きは、手を空しくして眺めてゐる外はない。其でも生前、口約束のやうなことを、人をとほしてあり、その作物をこんな風に見てゐる者もあると言ふことだけは、故人に知つて置いて貰はうと思うたこともあるのだから、謂はゞ書くべき義理がない訣でもない。其で、世の人のすなる評判記の類に繋りなく、勝手な感想の二三枚も書いて、故人をくやむ心だけを、その後、知りあひになつた遺族の方々の前に表したい――さう思うて書かうとする訣、全く唯何となく、書いて見るだけのことである。

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