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TORENDIA

子規自筆の根岸地図

本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

正岡子規から届いた端書と自筆の根岸の地図をめぐり、過去の記憶と変貌した街の姿を綴る随筆。著者は子規が寝たきりの状態で記憶を頼りに描いた地図の緻密さに感銘を受ける。その後、三十年ぶりに地図を頼りに鶯横町を訪れるが、街並みの変化に戸惑いを覚える。しかし、昔のままの姿で路地に茂る椎の木を目にしたことで、当時の記憶との繋がりを取り戻し、変容する現代の風景の中で失われゆくものと変わらぬ自然について静かに思索を巡らせる。

寺田寅彦

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🎧 子規自筆の根岸地図 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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子規の自筆を二つ持っている。その一つは端書で「今朝ハ失敬、今日午後四時頃夏目来訪只今(九時)帰申候。寓所ハ牛込矢来町三番地字中ノ丸丙六〇号」とある。片仮名は三字だけである。「四時頃」の三字はあとから行の右側へ書き入れになっている。表面には「駒込西片町十番地いノ十六 寺田寅彦殿 上根岸八十二 正岡常規」とあり、消印は「武蔵東京下谷 卅三年七月二十四日イ便」となっている。これは、夏目先生が英国へ留学を命ぜられたために熊本を引上げて上京し、奥さんのおさとの中根氏の寓居にひと先ず落着かれたときのことであるらしい。先生が上京した事をわざわざ知らしてくれたものと思われる。その頃自分は大学二年生であったが、その少し前に郷里から妻を呼びよせて西片町に家をもっていたのである。

「今日」とあるのは七月二十三日だろうと思われるのは消印が二十四日のイ便であるのに「只今(九時)帰申候」とあるからである。夏目先生が帰ってからすぐに筆をとってこの端書をかき、そうして、おそらくすぐに令妹律子さんに渡してポストに入れさせたのではないかとも想像される。それが最後の集便時刻を過ぎていたので消印が翌日の日附になったものであろう。

それはとにかく「四時」「九時」と時刻を克明に書いている所に何となく自分の頭にある子規という人が出ているような気がする。そうかと思うと日附は書いてないのも何となく面白い。

配達局の消印も明瞭で駒込局のロ便になっている。一体にその頃の消印ははっきりしていたが、近頃のは捺し方がぞんざいで不明なのが多いような気がする。こんな些末なところにも現代の慌だしさが出ているかもしれないと思われる。

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