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TORENDIA

獄中への手紙

本文約370,400字 ・ 読了時間 約741分

あらすじ(AIが作成しました)

慶応義塾大学病院に入院中の筆者が、巣鴨拘置所に収監されている夫へ宛てた書簡集。手術後の回復状況や病室での穏やかな日常、面会や子供たちの様子、手塚家や中野家などの知人の動向を綴る。また、近代文学における女性作家の歴史的立ち位置や表現について考察する論考も収める。離れて過ごす正月を前に、夫への深い情愛と互いの健康を祈る心情を込めた私信の形をとりながら、当時の社会状況や自身の生活と思索を多角的に描き出す。

宮本百合子

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一月一日 〔豊島区西巣鴨一ノ三二七七巣鴨拘置所の宮本顕治宛 四谷区西信濃町慶応義塾大学病院内い号の下より(封書)〕

一月一日  第一信。

あけましてお目出とう。今年もまたいい一年を暮しましょうね。

ずっと順調で熱もきのうきょうは朝五・九分位、夜六・八どまりの有様です。このようになおりかかって来ると傷口の大小が決定的に影響して、一寸足らずの傷であるありがた味がよくわかります。傷そのものの不便さはもう殆ど感じません。ただ腹帯をたっぷりかたくまいているのでおなかがかたくって、曲りかがみに大不便です。上体を一寸捩るような形はまだ妙に筋がつれて出来ませんがベッドから下りたり上ったりすっかり自分の力でやれます。きょうから少々歩き初めです。一日に三四度往復十間位のところを歩くようになりました。これで三四日して入浴出来るようになって、もっと足がしっかりしたら全快ですね。傷が大きいと、表面だけ癒ったようで内部はよくついていないことがあり、退院後に又深いところで苦情が生じたりする危険があるそうですがこう小さい傷だと、内からちゃんとまとまり易いから大助り。

今は椅子にかけ、小テーブルに向ってこの手紙を書いて居るところです。咲枝がお年玉にこしらえてくれた黄色いミカンのようなドテラを着て、きのう稲子さんがもって来てくれた綺麗な綺麗なチューリップの植込みを眺めつつ。しかもこのテーブル(枕頭台から引出すようになったの)の上にはお供えが一つあってね、丸く二つ重った形を、そして、上のところに、ちょいと松竹梅の飾りをつけた形を臥ながら横から見ると、まるで私のようなの。随分似ている、似ている、と笑っていたらけさになって榊原さんが、そのお供えの、丁度おなかのでっぱりのところに、小さい絆創膏を十文字に貼りつけました。上出来の傷のお祝に。そしたら、お供えは俄然生色を帯びて、まるで生きもののように表情的になって、うれしいようなきまりわるいような様子をして、お盆の上にのって居ります。こんなところらしい冗談があるものね、感心しました。

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