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TORENDIA

私の会ったゴーリキイ

本文約5,400字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

一九二八年の夏、ソヴェトへ帰還したマクシム・ゴーリキイをレーニングラードのホテルで訪ねた著者が、その短い面会を通じて感じたゴーリキイの人格と文学的誠実さを綴る。本作は、写真のない少年時代を送ったゴーリキイが、過酷な現実の中でいかにしてロマンティシズムを力へと変え、大衆の代弁者として発展を遂げたかを論じる。社会と対峙し続けたその生涯と文学的姿勢を、歴史的視点から回顧する。

宮本百合子

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🎧 私の会ったゴーリキイ / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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私がマクシム・ゴーリキイに会ったのは、ちょうど今から足かけ八年前の一九二八年の初夏のことであった。

知られているとおりにゴーリキイは一九二三年にその頃まだ生きていたレーニンのすすめによって、持病の肺病の療養のためにイタリーへ行ってそこで暮らしていた。

五年ぶりでゴーリキイがソヴェトへ帰ってくる。このことはソヴェト同盟の大衆にとって一つの大きい興味と感動の中心であった。五年の間に非常なテムポですすめられたソヴェト同盟の社会的建設の成果を、文学的・文化的前進の姿をこの馴染みふかい大衆からの作家であるゴーリキイは何とみるであろうか。

ゴーリキイが帰ってくるということがきまった春、モスクワ、レーニングラードその他の主な都会では特別にゴーリキイ歓迎のための展覧会をひらいた。それには当時のラップをはじめ、アカデミーの文学部、人民文化委員会の芸術部等が共同的に参加して、まことに有益な催しをもった。

ゴーリキイの原稿、それから一九〇五年にゴーリキイが宣伝文をかいたというために検挙されたペテロパヴロフスクの要塞監獄の監房の写真、さらにトルストイやチェホフなどとあつまっている記念写真、レーニンと西洋将棋をさしている写真など興味ふかいものが並べられた。

この展覧会で私の心をうった一つのことは、ゴーリキイの幼年及び少年時代の写真というものが一枚もなかったことである。レーニンの三つくらいの時の愛らしい写真はソヴェト同盟の幼稚園の壁にかけられている。しかしゴーリキイは一枚も子供時代の写真をもっていない。つまり写真なんか撮ってもらわなかったそういう幼年・少年時代が伝記的な作品「幼年時代」「人々の中」「主人」「私の大学」等に描かれているのであるが、この写真のないことでも幼いゴーリキイが子供心にそれと闘いつつ成長してきた野蛮な暗い愛情のない環境が想像されるのであった。

この展覧会はロシアの若い人々の間にどの作家がもっとも多く愛読されているかという統計をかかげていた。外国の作家で一番愛読されていたのはジャック・ロンドンであったと思うが、ロシアの古典作家ではトルストイ、現代作家ではゴーリキイが最高であった。

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