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TORENDIA

貸家探し

本文約4,900字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

谷中や日暮里周辺を彷徨い、住まいを探す主人公が、陰気な貸家に足を踏み入れたり、街を歩いて見知らぬ人々の日常を眺めたりする様子を描く。孤独と不安を抱えながらも、蕎麦屋や浅草での食事を通じて一時的に心の憂鬱を払い落とす一日を綴る。散策の末に家は見つからず、新聞広告で探すことに切り替えるが、後日知人の訃報に接し、死への無常観と自らの生への思索を抱く姿を描き出す。

林芙美子

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🎧 貸家探し / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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山崎朝雲と云うひとの家の横から動坂の方へぽつぽつ降りると、福沢一郎氏のアトリエの屋根が見える。火事でもあったのか、とある小さな路地の中に、一軒ほど丸焼けのまま柱だけつっ立っている家のそばに、サルビヤが真盛りの貸家が眼についた。玄関が二つあるけれども、がたがたに古い家で、雨戸が水を吸ったように湿っていた。ビール瓶で花園をかこってあるが、花園の中には塵芥が山のように積んであり、看護婦会の白い看板が捨ててあったりする。こんな家に住むのは厭だなと思い、路地から路地を抜けて動坂の電車通りへ出て、電車通りをつっ切り染物屋の路地へ這入ると、ここはもう荒川区日暮里九丁目になっている。荒川区と云うと、何だか遠い処のように思えて、散々家を探すのが厭になり、古道具屋だの、炭屋だの、魚屋だののような日常品を売る店の多い通りを、私は長い外套の裾をなびかせて支那人のような姿で歩いた。炭屋の店先きでは、フラスコに赤い水を入れて煉炭で湯をわかして近所のお神さんの眼を惹いている。私も少時はそれに見とれていた。支那そば屋、寿司屋、たい焼屋、色々な匂いがする。レコードが鳴っている。私は田端の自笑軒の前を通って、石材屋の前のおどけた狸のおきものを眺めたり、お諏訪様の横のレンガ坂を当もなく登ってみたりした。小学生が沢山降りて来る。みんな顔色が悪い。風が冷たいせいかも知れない。みんなあおぐろい顔色をしていた。

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