未来の天才
本文約18,500字 ・ 読了時間 約37分
あらすじ(AIが作成しました)
朝、天井から蜘蛛が降りてくるのを見た画家は、縁起の良さを感じていた。直後に伯父から創作活動を促す手紙と大金が届き、彼は喜びを噛みしめる。愛する女性・静子をモデルに傑作を描こうと決意した画家は、彼女への贈り物を携え、輝かしい未来を確信して躍動する。しかし、静子の父親から厳しい質問や奇妙な申し出を受け、画家は戸惑いと困惑を覚えながらも、胸の内に溢れる幸福感に圧倒されてゆく。
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幸福というものは、何時何処から舞い込んでくるか分らない。それをうまく捉えることが肝要なのだ。――あの朝、遅くまで寝床に愚図々々してた時、天井からすっと蜘蛛の子が降りてきた。あるかなきかの細い一筋の糸を伝って、風よりも軽いちっちゃな蜘蛛の子が、室の中に澱んだ空気の間をぬけて、すーっと降りてくる拍子に、私の顔へぼやりと落ちかかった。微妙な一種の感触――それもあるかなきかの――に、ふっと眼を開くと、糸をたぐりながらくるくると動かしている手足の中にまるまった灰白色の蜘蛛の子は、私の顔から二三尺上の宙に浮んでいて、だんだん上へ昇ってゆく、と思ううちに、もう見えなくなってしまった。その瞬間に私は、「これは縁起がいいな」と思った。後で考えると、朝蜘蛛は縁起がいいということを聞いたようでもあるし、天井から降りてくる蜘蛛は凶兆だということを聞いたようでもあるが、兎に角、あの瞬間に縁起がいいと思ったのが仕合せだったのだ。なぜなら、そんな筈はない訳だけれども、それでも何となく私には、そう思ったために伯父の手紙も私の手にはいったように考えられてならないのである。――それから一時間とたたないうちに、伯父の手紙が私の手許に届いたのだった。