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TORENDIA

香奠

本文約22,900字 ・ 読了時間 約46分

あらすじ(AIが作成しました)

平田伍三郎は、上京した際に面識のない語り手の家を訪ねる。朴訥で純朴な平田と接するうちに、語り手は都会と田舎の感性の隔たりを感じ取る。その後、平田は突然亡くなる。語り手は平田が親しくしていた女性に訃報を伝え、女性から香奠の申し出を受けるが一度は断る。しかし、女性の振る舞いを通じて新たな世界を感じた語り手は、自身の香奠に彼女の分を密かに上乗せし、平田の霊前に供えることで、独自の晴れやかな心持ちを得るに至る。

豊島与志雄

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母上

今日は日曜日です。日曜日にふさわしい好天気です。家の者はみな、妻と子供達と女中と一同で、郊外に遊びに出かけて、私一人留守をしています。で私は、今日一日日向の縁側に寝転んで、あなたにお話をしたいと思います。丁度今私の前には、猫が背をまるくうずくまって、うつらうつらとしています。そういう風に――と云っては失礼ですが、まあそういう風にあなたが私の前にいられるものとして、ゆっくりお話をしたいのです。話というのは他のことでもありません。平田伍三郎のことなんです。

母上

平田伍三郎はほんとに可哀そうなことになりました。けれど今更もう仕方はありません。何を申すもみな愚痴にすぎません。あなたも大体のことは、平田の母親や伯父からお聞き及びだと存じます。だから私はそれらの事柄を改めて詳しく申上げようとは致しますまい。そしてただ、私が平田の母親や伯父へ口先で伝え得なかったこと、表面に現われていない重大なこと、それをあなたへお話しようと思います。

母上

二月の初めの寒い晩でした。「ヒラタユクタノム」という電報が不意に私の所へ舞い込んできました。勿論不意にと云っても、それは私の方だけのことかも知れません。前にあなたからと平田の伯父からと、二つの手紙が来ていましたから。けれども、あなたのお手紙には、隣村の平田という人が東京へ行くとかいうので、その伯父さんが来てよろしく頼むという話だった、とただそれだけのことでしたし、平田の伯父の手紙には、伍三郎が近いうち東京へ勉強に出るから、隣村のよしみで万事御指導をお願いしたい、という簡単な文句だけだったものですから、私はただ一通り挨拶の返事を出したきりでした。それから二週間もたった後、行くから頼むという電報なものですから、全く意外な気がしたのです。一体東京へ出て来て、何を勉強するのか、どの学校にはいるのか、下宿はどうするのか、いつ東京へ着くのか、何もかもさっぱり見当がつかないで、私はただ電報を眺めていました。

「随分呑気な人ですわね。」と妻が云います。

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