砂糖泥棒
本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
醤油醸造場で働く与助は、幼い子供たちや産褥にある妻のために、工場の砂糖を少しずつ持ち帰る生活を送っていた。ある日、主人は砂糖倉で与助がザラメを隠す姿を目撃し、その場で解雇を言い渡す。積金の返還を懇願する与助に対し、主人は不正を理由に規約を盾に拒絶するばかりか、警察への通報をほのめかす。与助は積金を諦め、無一文で工場を去る。その後、隠された砂糖は仲間の労働者や杜氏によって消費され、何もかも失った男の悲哀が浮かび上がる。
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与助の妻は産褥についていた。子供は六ツになる女を頭に二人あった。今度で三人目である。彼はある日砂糖倉に這入って帆前垂にザラメをすくいこんでいた、ところがそこを主人が見つけた。
主人は、醤油醸造場の門を入って来たところだった。砂糖倉は門を入ってすぐ右側にあった。頑丈な格子戸がそこについていた。主人は細かくて、やかましかった。醤油袋一枚、縄切れ五六尺でさえ、労働者が塵の中へ掃き込んだり、焼いたりしていると叱りつけた。そういう性質からして、工場へ一歩足を踏みこむと、棒切れ一ツにでも眼を見はっていた。細かく眼が働く特別な才能でも持っているらしい。
彼は与助には気づかぬ振りをして、すぐ屋敷へ帰って、杜氏(職工長の如き役目の者)を呼んだ。
杜氏は、恭々しく頭を下げて、伏目勝ちに主人の話をきいた。
「与助にはなんぼ程貸越しになっとるか?」と、主人は云った。
「へい。」杜氏は重ねてお辞儀をした。「今月分はまるで貸しとったかも知れません。」
主人の顔は、少時、むずかしくなった。
「今日限り、あいつにゃひまをやって呉れい!」
「へえ、……としますと……貸越しになっとる分はどう致しましょうか?」
「戻させるんだ。」
「へえ、でも、あれは、一文も持っとりゃしません。」
「無いのか、仕方のない奴だ!――だがまあ二十円位い損をしたって、泥棒を傭うて置くよりゃましだ。今すぐぼい出してしまえ!」
「へえ、さようでございます。」と杜氏はまた頭を下げた。
主人は、杜氏が去ったあとで、毎月労働者の賃銀の中から、総額の五分ずつ貯金をさして、自分が預っている金が与助の分も四十円近くたまっていることに思い及んでいた。
杜氏は、醸造場へ来ると事務所へ与助を呼んで、障子を閉め切って、外へ話がもれないように小声で主人の旨を伝えた。