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TORENDIA

文化祭

本文約13,900字 ・ 読了時間 約28分

あらすじ(AIが作成しました)

農村の資産家である井田信二は、幼い頃より借金取りを追い返すことに異様な快感を覚える風変わりな青年であった。ある日、地元の青年団が企画した文化祭で幹事を引き受けることになり、彼は巧みな論法を駆使して会を仕切り始める。しかし、蓋を開けてみれば出演者への報酬も支払わず、収益を巧みにすり替えることで山賊顔負けの強引な振る舞いを展開する。村の人々をも手玉に取った彼は、最後には共に連れ出した歌手を置き去りにして、煙のように去っていく。

坂口安吾

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趣味というものは広いものだ。信じられないようなことを好む人がある。

井田信二は農村の静かな風物のなかで何不自由なく育った。彼の周囲の人々はそれぞれアクセク土にまみれて働いているのに、彼だけは戦時中も卵や牛乳にも不自由なくいわば小国の王子のように育ったのである。そのアゲクとして、彼が成人したときに、何が一番好きかというと、人から物を借りること、借りた物を返さないこと、サイソクされるとヌラリクラリと弁舌縦横敵を論破して退却せしめる。それが何より好きになった。早く云えば借金とり撃退を地上随一の快と感じるに至ったのである。

借金とり撃退に快を感じる人はこの世に少くないかも知れないが、多くはやむをえずそうなったもので、有るべき物が手もとにあれば強いてそのへんに快をむさぼるにも及ばないというのが実情であろう。中には矢でも鉄砲でも持ってこいなぞと身体をはる威勢のいい撃退組もあるが、ハタから見ればこれも悲痛で感心できないものがある。雅致がない。もともと借金はセッパつまったものではあるが、すすんで特攻隊になるのも感服すべき手段ではない。とはいえ、思いあまったアゲクのことで、風雅の道に欠けるところがあっても責めるわけにいかない性質のものだ。

ところが井田信二は名実ともに威勢のいい人物ではなかった。小学校の時から体操がヘタで、至って栄養がよいのに力がない。鉄棒にぶら下れば、ぶら下りッ放しで動くことができないという非力で、およそスポーツというものには何一ツ趣味もなければ縁もなかった。

こういう虚弱児童には才気が恵まれているのが普通であるが、彼はその方にも縁がなかった。少くとも学校で教えてくれる学問というものには腕の見せ場がなかったのである。農村の特殊階級、大旦那の坊っちゃんだから、物さえ言わなければボロをださずにすむ。駈けッこをさせなければ負けるはずもない。ボロをださせないために小学校の先生なぞは大そう苦心したものだが、思わぬ諸方にボロをだすので音をあげたものだ。箸にも棒にもかからないノータリンの風格があった。

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