明治開化 安吾捕物
本文約31,900字 ・ 読了時間 約64分
あらすじ(AIが作成しました)
川越の囲碁名手・千頭津右衛門の屋敷に招かれた甚八は、対局中に津右衛門が急死する場面に遭遇する。津右衛門は死に際してある方向を指し示し、その不可解な動作が伝説の財宝の隠し場所を示唆していると噂される。この急変を単なる病死と片付けず、甚八が持ち前の鋭い観察眼と囲碁の戦術を駆使して邸内の異様な気配に迫る中、結城新十郎が事件の真相を追い、暗躍する一味の策略と千頭家を巡る相続争いの深層を鮮やかに解き明かしていく。
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「私は六段格で。ヘッヘ」
と、甚八はさッさと白をとった。神田の甚八といえば江戸名題の賭碁のアンチャン。本職は大工だが、碁石を握ると素人無敵、本因坊にも二目なら絶対、先なら打ち分けぐらいでしょうなとウヌボレのいたって強い男。川越くんだりへ来て、手を隠すことはない。
武州川越在の千頭津右衛門といえば、碁打の間には全国的に名の知れた打ち手。名人上手に先二なら歩があるという評判であった。礼を厚うして各家元の専門棋士を招き、棋力は進んで五段格を許されていた。諸国の碁天狗どもが参覲交替で上京の折に盛名をきいて手合いに訪問すると、大そうなモテナシをうけるのはいいが、みんなコロコロ負かされてしまう。とうてい敵ではない。津右衛門の棋力は旦那芸にあらず、実力五段充分と諸国の碁打に折紙づきの評判が二十年もつづいて、各家元の打手をのぞいて、田舎棋士の筆頭に押されている達人であった。しかし甚八は怖れない。江戸の素人天狗なら三目置かせて総ナメにしてみせらアと猪のように鼻息の荒い奴だが、棋力はたしかに素人抜群、専門棋士の二段ぐらいの腕はあった。
金にあかして家元の棋士にチヤホヤと買いとった五段格。所詮は田舎の旦那芸。田舎侍がコロコロ負かされるのは当り前だ。田舎侍の碁天狗などに碁の本筋が分る奴は一人だって居やしない。千頭津右衛門などと名前だけは大そうだが、こちとらは金持ちとちがって一文無しで叩き上げた筋金入りの腕前。生馬の目玉をぬく江戸の天狗連を総ナメのアンチャンだ。二目はおろか三目でも負かしてみせらア。アッハッハ。という肚の中。ひとつ田舎天狗の大将をオモチャにしてやろうというので、はるばる川越くんだりへ御足労とシャレた次第であった。甚八に遠慮なく白をとられても、津右衛門には蚊のとまったほども応えないらしく、クスリと笑って、