明治開化 安吾捕物
本文約33,100字 ・ 読了時間 約67分
あらすじ(AIが作成しました)
深川木場の大旦那・不破喜兵衛は、度重なる親族の不幸を縁起直しするため、生きたまま葬式を行う趣向を凝らす。自身の誕生日に行われるその異様な式を前に、二人の孫の変死を他殺と睨む花廼屋と虎之介は、周囲の不穏な動きを探る。やがて事件の背後には山木家乗っ取りを画策する悪人の影が浮かび上がり、名探偵・結城新十郎がその巧妙なからくりと犯人の正体を追い詰めていく過程を描く。
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年が改って一月の十三日。松飾りも取払われて、街には正月気分が見られなくなったが、ここ市川の田舎道を着かざった人々の群が三々五々つづいて通る。一見して東京も下町のそれと分る風俗。芸者風の粋な女姿も少からずまじっている。
深川は木場の旦那の数ある中でも音にきこえた大旦那山キの市川別荘へ葬式に参列する人々であったが、それにしては喪服姿が目につかなくて、女姿は遊山のようになまめかしいばかりである。それも道理。お葬式とは云え、死んだフリをして生きかえるという趣向のものだ。
山キの当主、不破喜兵衛は当年六十一。一月十三日というこの日が誕生日で、還暦祝いを葬式でやろうというのである。
厄払いの意味もあった。甚だ老後にめぐまれない人で、中年に夫人を失ったのが晩年の孤独のキザシであった。彼自身は生れつき頑健な体質で病気知らずと人の羨む体質だったが、死んだ夫人は病弱だったせいか、生れた三名の子供のうち、兄と姉はすでにこの世になく、一人残った清作も病身であった。骨が細くヒョロ/\と青白く育って、見るからに長命の相が欠けているから、
「早く嫁をもたせてタネをとらなくちゃア、山キの後が絶えてしまう。美人薄命というが、オレがキリョウ好みをしたのが思えば失敗のモトであろう。若い頃は分別が至らないから、目先の快楽に盲いて、老後も死後も考えないが、家を保つには丈夫で利口な嫁を選ばなければいけないものだ。その上キリョウが良ければ越したことはないが、それは二の次だ」
不破喜兵衛はこう考えて、まだ清作が二十という若いときに、今の嫁をもたせた。そのときチヨは十六という若い嫁であった。
幸いに玉之助、信作という二人の孫は母の健康をうけついで無病息災に育つから、喜兵衛も非常に安堵していた。と、去年の秋の季節に、大事な二人の孫がまちがえて毒茸を食し、一夜にそろって死んでしまった。