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TORENDIA

或教授の退職の辞

本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

初夏の夜、楽友館で催された慰労会において、停年を迎えた一教授が自らの公生涯を振り返る。北国の寒村での少年時代、進路に迷いながら哲学を志した青年期、そして幾多の転機を経て大学教授となった二十年余りを語る。かつての学問への情熱や人生の転落の苦悩、そして老いに至るまでの平凡な来歴を回顧し、参加者に対して過去のすべてを容認するよう願いつつ、教授は穏やかに会場を後にする。本書は、一学者の六十年の生涯を回想する形式をとった一編を収める。

西田幾多郎

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🎧 或教授の退職の辞 / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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これは楽友館の給仕が話したのを誰かが書いたものらしい、

而もそれは大分以前のことであろう。

初夏の或晩、楽友館の広間に、皓々と電燈がかがやいて、多くの人々が集った。この頃よくある停年教授の慰労会が催されるのらしい。もう暑苦しいといってよい頃であったが、それでも開け放された窓のカーテンが風を孕んで、涼しげにも見えた。久しぶりにて遇った人もあるらしい。一団の人々がここかしこに卓を囲んで何だか話し合っていた。やがて宴が始まってデザート・コースに入るや、停年教授の前に坐っていた一教授が立って、明晰なる口調で慰労の辞を述べた。停年教授はと見ていると、彼は見掛によらぬ羞かみやと見えて、立つて何だか謝辞らしいことを述べたが、口籠ってよく分らなかった。宴が終って、誰もかれも打ち寛いだ頃、彼は前の謝辞があまりに簡単で済まなかったとでも思ったか、また立って彼の生涯の回顧らしいことを話し始めた。

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