本文へ移動
TORENDIA

『十八時の音楽浴』の作者の言葉

本文約3,100字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

科学小説集である本書は、著者が戦時下の出版界の混乱や編集者との関係に対する見解を記すとともに、収録された各短編作品への感想を綴る。人の意志が科学手段で監理される将来を示唆する表題作をはじめ、怪力線や人造人間などを題材にした物語、および放送台本などが収められている。科学教育の重要性と、科学小説を熱望する青少年層の存在を強調し、作家の創作背景や作品発表時のエピソードを通して科学小説の可能性を論じる。

海野十三

速度
🎧 『十八時の音楽浴』の作者の言葉 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 5

この書は、僕の科学小説集の第三冊目にあたる。

この前、同じ版元から『地球盗難』を刊行したが、これは意外に好評であった。この『地球盗難』はその後、三夜連続のラジオドラマとして放送され、更に好評を博した。それでいよいよ待望の科学小説時代が来たらしいと思ったわけであったが、途端に日中戦争が始まり、出版界は大動揺を来たした。読書界も、急に落着を失い、或いは方向転換をしたり、或いは廃刊や出版止があったりして、それ等のことはどっちかいうと意味なく騒ぎを惹きおこし、そして拡大した。戦争前、今こそ科学小説時代が約束されたと僕が思ったのもほんの束の間のことで、編集者の狼狽でもって、意味もなく、この約束もどこかにけし飛んでしまったというような形だった。

僕にいわせるなら、あのとき科学小説時代の約束が反古になるべき何等本質上の理由はなかったと思う。いやむしろ、本質的には、あのとき科学小説が一段と栄えてしかるべきであったと思う。渡洋爆撃への驚嘆、快速戦車部隊への刮目、敵の空襲や迫撃砲や機関銃に対する悲憤、それからまた軍需品製造への緊張、科学戦時代を迎えて青少年といわず老幼男女を問わず国民全体を科学教育することへの逼迫などと、あらゆる材料が読書界を科学小説時代へ持ってゆくための好条件であったのだ。しかも事実はそれに反して、科学小説時代はついに来なかった。純文芸の復興や、卑猥[#「卑猥」は底本では「卑擡」]小説の擡頭などの計画とともに、十把一からげの有様で、ついに科学小説時代の件もがらがらと崩れてしまったのである。これでは本質的には何とも説明のつけようがない。味噌も糞も見分けがつかないほど、編集者が大狼狽した結果であるというしかいいようがない。科学小説にとっては、まことに不運なことであった。

海野十三の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本