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TORENDIA

『春と修羅』

本文約43,100字 ・ 読了時間 約87分

あらすじ(AIが作成しました)

大正期の自然や心象を題材にした詩集を収める。作者自身を仮定された有機交流電燈と見なす序文を掲げ、北上山地の厳しい自然の情景や、その中にあって自らを修羅と呼び、苦悩や孤独を抱えながら生きる精神の葛藤を、独自の言葉で描き出す。雪の降り積もる冬の情景、火口原を巡る風景、そして銀河や星々が織りなす幻想的な世界を背景に、刻々と変容する心象と現実の風景が渾然一体となって重なり合う様を記録する。

宮沢賢治

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[#ページの左右中央]

心象スケツチ

春と修羅

大正十一、二年

[#改丁]

序

わたくしといふ現象は

仮定された有機交流電燈の

ひとつの青い照明です

(あらゆる透明な幽霊の複合体)

風景やみんなといつしよに

せはしくせはしく明滅しながら

いかにもたしかにともりつづける

因果交流電燈の

ひとつの青い照明です

(ひかりはたもち その電燈は失はれ)

これらは二十二箇月の

過去とかんずる方角から

紙と鉱質インクをつらね

(すべてわたくしと明滅し

みんなが同時に感ずるもの)

ここまでたもちつゞけられた

かげとひかりのひとくさりづつ

そのとほりの心象スケツチです

これらについて人や銀河や修羅や海胆は

宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら

それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが

それらも畢竟こゝろのひとつの風物です

たゞたしかに記録されたこれらのけしきは

記録されたそのとほりのこのけしきで

それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで

ある程度まではみんなに共通いたします

(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに

みんなのおのおののなかのすべてですから)

けれどもこれら新生代沖積世の

巨大に明るい時間の集積のなかで

正しくうつされた筈のこれらのことばが

わづかその一点にも均しい明暗のうちに

(あるいは修羅の十億年)

すでにはやくもその組立や質を変じ

しかもわたくしも印刷者も

それを変らないとして感ずることは

傾向としてはあり得ます

けだしわれわれがわれわれの感官や

風景や人物をかんずるやうに

そしてたゞ共通に感ずるだけであるやうに

記録や歴史 あるいは地史といふものも

それのいろいろの論料といつしよに

(因果の時空的制約のもとに)

われわれがかんじてゐるのに過ぎません

おそらくこれから二千年もたつたころは

それ相当のちがつた地質学が流用され

相当した証拠もまた次次過去から現出し

みんなは二千年ぐらゐ前には

青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ

新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層

きらびやかな氷窒素のあたりから

すてきな化石を発掘したり

あるいは白堊紀砂岩の層面に

透明な人類の巨大な足跡を

発見するかもしれません

すべてこれらの命題は

心象や時間それ自身の性質として

第四次延長のなかで主張されます

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