山の雪
本文約4,200字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
岩手県の山中に住む作者が、降り積もる雪に閉ざされた冬の暮らしを綴る。周囲に家はなく、静寂に包まれた小屋で孤独を抱えるなか、訪れるキツツキや小鳥、夜ごとのネズミ、雪原に残るウサギやキツネの足跡など、山に生きるものたちの気配に心を慰められる。雪の結晶が虹色に輝く昼の情景や、お伽話のように見える夜の雪景色、吹雪の猛威を詳述しながら、厳しい冬を耐え抜く山での生活と自然の美しさを描き出す。
💰 この本を応援する(投げ銭)
わたしは雪が大好きで、雪がふってくるとおもてにとび出し、あたまから雪を白くかぶるのがおもしろくてたまらない。
わたしは日本の北の方、岩手県の山の中にすんでいるので、十一月ごろからそろそろ雪のふるのを見ることができ、十二月末にはもういちめんにまっしろになったけしきをまいにち見る。このへんでは、平均一メートルくらいしかつもらないけれども、小屋の北がわでは屋根までとどき、地めんのくぼみなどでは人間の胸くらいまでつもる。
わたしの小屋は村の人たちのすんでいるところから四百メートルほど山の方にはなれていて、まわりに一けんも家はなく、林や野はらや、少しばかりの畑などがあるだけで、雪がつもるとどちらを見てもまっしろな雪ばかりになり、人っこひとり見えない。むろん人のこえもきこえず、あるく音もきこえない。小屋の中にすわっていると、雪のふるのは雨のように音をたてないから、世界じゅうがしずかにしんとしてしまって、つんぼになったような気がするくらいだが、いろりでもえる薪がときどきぱちぱちいったり、やかんの湯のわく音がかすかにきこえてくる。そういう日が三ヶ月もつづく。
一メートルくらいつもった雪はあるきにくいから人も小屋にたずねてこない。あけてもくれてもひとりでいろりに火をもしながら、食事をしたり、本をよんだり、仕事をしたりしているが、そんなにながくひとりでいるとなんだか人にあいたくなる。人でなくてもいいから何か生きているものにあいたくなる。鳥でもけだものでもいいからくればいいとおもう。