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TORENDIA

アンリエツトの転地療養日記

本文約940字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

巴里を離れ転地療養へ向かう少女は、家族と共に南仏ポオのサナトリウムに滞在する。温暖な気候のもと、公園で孔雀を眺めたり土地の市場を巡ったりと静かな日々を過ごす。ある日、詩人のムッシュ・ロベエルから微笑みの谷という土地について教わり、そこへ連れて行ってもらう約束をする。しかし、療養先で更なる滞在を望む少女の意向に反し、母親が急遽巴里への帰郷を強く主張するまでの一連の心の動きと滞在中の出来事を綴る。

岸田國士

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🎧 アンリエツトの転地療養日記 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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二月三日(水曜)曇

いよいよ巴里を離れることになつた。

朝八時、タクシイで、ケエ・ドルセエの停車場に行く。寒い。

病気で転地療養をするのに、大袈裟な用意なんかする必要はないといふパパの意見。

それでも、あゝいふ人の集るところだから、トアレツトのひと通りはといふママの意見。

ルイズ叔母さまも、ママの肩をおもちになる。

汽車の中で、正午の体温を計る。三十七度四分、気分はいゝけれど、顔がほてる。ママがのべつに「大丈夫かい」「大丈夫かい」つておつしやるもんで、ほかの人達がぢろぢろあたしの顔を見て困る。ママの膝にもたれて眠つたふりをしてゐる。

ボルドオに着いたら、日が暮れてゐた。乗換の時、前にゐた亜米利加人が荷物をおろしてくれる。

二月四日(木曜)晴

朝、寝台車の窓から、霧に包まれたピレネエの山が見える。

七時、ポオに着く。はじめて、カメリヤが咲いてゐるところを見る。

外套を脱ぎたいほどの暖かさ。日光が眩しい。

馬車で、町はづれのサナトリウム・サン・モオルへ行く。

あたしたちが案内されたのは、西班牙風の建物の下の一室で、建物の入口には、ヴイラ・セリユバンといふ札が出てゐる。

二月十八日(木曜)雨後晴

今日はじめて、一人で散歩をする。

公園へ行つて孔雀が飛んでゐるのを見たり、野菜市場で聞きなれない土地の方言に耳を傾けたりする。

それから、アンリ四世のお城を一と廻りして、ホテル・ド・ラ・フランスの前まで来ると、ぱつたり、ムツシユウ・ロベエルに遇つた。明日、馬車で、「微笑みの谷」へ連れてつてやるとおつしやる。

ムツシユウ・ロベエルは、詩を書いてらつしやるだけあつて、美しい「微笑みの谷」の眺めを、眼に見えるやうに説明なさる、言葉ははつきり覚えてないけれど、冬の眠りから醒めようとする自然が、微笑みをもつてわれわれを迎へてくれる、明るい、懐かしい谷の名だといふお話。

帰つて、ママにそのことを云ふと、あたしの顔をぢつと見つめながら、「あたしも一緒に行つてよければ……」とおつしやる。

二月二十七日(日曜)晴

急に巴里に帰ることになつた。

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