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TORENDIA

S夫人への手紙

本文約14,800字 ・ 読了時間 約30分

あらすじ(AIが作成しました)

夫を戦争で失った外国人女性へ向けて、戦後の日本社会の変容や生活様式の諸相について私的な解釈を綴る。ダンスホールに集う青年のあり方や、個人の名誉を巡る劇団への抗議問題などを題材に、日本人が本来の自力を信じ、順序を重んじてどん底から再生することの重要性を説く。さらに、衣食住の合理化や礼式作法の研究を通じて、真に幸福な生活様式を構築し、日本人が自らの国民性を正しく理解し直すための指針を提示する。

岸田國士

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一

これから毎月一回あなたに手紙を書こうと思いたちました。今度の戦争で愛する夫君を失われ、また小さい二人のお子さんたちの将来について思いなやんでいられるあなたから、いろ/\なご相談を受けた時、私がまず感じたことは、国籍こそ日本にあつても、やはりヨーロッパ人の血を享けた女性としてのあなたが、果して、これからさき日本に止つて、われ/\と運命を共にすることがおできになるか、ということでした。

しかし、一方、かね/″\、あなたが、夫君の生国であるという理由はもちろんあるでしようが日本という国に興味をもち、日本人の特質をよく理解し、この国と人とを心から愛しようと努めていられた事実をよく知つていますから、なによりも誠実な生き方をしようとしてもがいていられるあなたのすがたは、私の心を一層強くうちました。

なんの力もない私ではありますが、あの時のあなたのお言葉に従えば、お子さんたちを「よい日本人」に育てあげたいというあなたの念願に対して、若しもなにかのご参考になればと思い、現在、あなたを取巻く日本の社会の様々な風潮、日本人のあらゆる表情について、あなたに疑問を起させそうな点を、その時どきに取あげて、私流の解釈を加えてみようと思うのです。あなたが日本語の新聞をかなり正確に読まれるのには私も感心しているのですが、それ以上に、あなたは実に鋭い読み方をなさつているのに気がついて驚きました。それもそのはずでしよう、十年前日本の土を踏まれた、その最初の日から、あなたは見るもの聞くものについて、夫君に手きびしい質問をされたという話を伺つています。

私はご承知の通り、どこからどこまで日本人ですが、日本の自慢というものはあまりしない方です。その代り、異国の人々に日本を正しく理解してもらいたいという気持、もし美点があるとすればその美点と同様に、その欠点をも、表面的な観察ですぐに結論を下されては閉口だ、という気持でいつぱいです。

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