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TORENDIA

もうひと息

本文約660字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

芥川賞の候補作品九篇を審査する選考委員会の席上で、著者が庄野潤三の「流木」、小島信夫の「吃音学院」、広池秋子の「オンリー達」の三作について批評を展開する。庄野の力量を認めつつもさらなる傑作を期待し、小島のバランスのとれた才能に将来性を感じ、広池の作品についてはその執筆動機に疑問を呈する。受賞作の選定をめぐり、委員としての立場から各作品の評価を論じる。

岸田國士

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候補作品九篇のうち、私が最も推賞に値すると思つたのは、庄野潤三の「流木」と小島信夫の「吃音学院」であつた。

委員会の席上、広池秋子の「オンリー達」を支持する声が二三あつたけれども、私は賛成しかねた。

庄野潤三は既に、単行本も出てゐる新進作家で、私のみるところその力量はゆうに芥川賞受賞の水準に達してゐる。しかし、この「流木」一篇を特にこの有望作家の秀作と認めるわけにはゆかぬ。私は、このひとの才気を非常に高く買つてゐるだけに、じつくりとすぐれた素材に挑み、もつと重量感のある傑作を早くみせてほしい。

小島信夫の「吃音学院」は、なかなかしつかりした佳い作品である。私はかういふバランスのよくとれた才能を日本文学の将来のために、大切にしたく思ふ。新鮮な抒情味と、古典的な厳しさとがこの作家のなかで、どう調和していくかを、私は楽しみに見守りたく思ふ。たゞ、この一作だけではまだすこし、先々の保証がつけにくい。

広池秋子の「オンリー達」を読んで、私は、なんのために、この作者は、かういふ女たちの生活をこんなに好奇心をふくらませて書くのかゞわかりかねた。

面白がつて読むものがあるのを予想してであらうが、その意味では成功してゐないことはない。私も、めづらしく、この種のものとしては退屈せずに読んだ。

この作品を強く支持した委員もゐたが、私はそれほどのものとは思はない。かういふものしか書けぬやうでは困る、と、ちよつと気になつた。

そんなわけで、以上三作を、最後まで残すことには同意したが、いづれか一つを受賞作品とすることには躊躇した。

完

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