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TORENDIA

凩日記

本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

自身をモデルにした青銅の胸像に嫌悪を抱き、友人の八代龍太へ預けた「僕」は、心身共に疲弊しきったある日、その像への未練から龍太を追いかける。三田の路地で再会した二人は、質店に預けられたままの像を巡る苦境と葛藤を共有し、魂のやり場を見失った現在の境地を確かめ合う。後に龍太から届いた絵葉書を受け取った「僕」は、生活という名の格闘を舞踊のように捉え、遠ざかる星々を眺めながら、重苦しい現実と絶対的な存在について思索を巡らせる。

牧野信一

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🎧 凩日記 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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心象の飛躍を索め、生活の変貌を翹望する――斯ういふ意味のことは口にしたり記述されたりする場合に接すると多く無稽感を誘はれるものだが、真実に人の胸底に巣喰ふ左様な憧憬や苦悶は最も原始的に多彩な強烈さを持つて蟠居する渦巻であらう。僕も亦不断に斯る竜巻に向つて戈を構える包囲軍中の一兵卒である。勇敢なる軽騎兵だ。然し僕は、余りに激烈なる突撃のために、屡々自己を見失つて乗馬の鞍から転落する。

あの、僕の友達の作品が日本美術院の展覧会に出品されたのは、たしか昭和四年の秋かと憶える。「マキノ氏像」と題する青銅の胸像で、僕の真正面向きをモデルに執つたものである。――ありのまゝの己れを見ることの苦しさよ、昨日の己れは綺麗に棄てゝ、明日の己れを樹てたきものよ! と悶掻くことの迷信から、僕はそれを浮浪青年なる八代龍太が保管を引き享けるといふがまゝに、二度とは対面したくなきものと呟きながら彼の腕に托し棄てた。僕はそれに向つて、作品としての価値は問ふことなしに、単に己れの姿を眼前に引き据えた傷心から、罵りと共に永別を告げた。龍太は僕の罵り声が次第に激しく(何故なら僕はその後龍太に出会ふ毎に、激しく毛嫌ひするマキノ氏像を思ひ出すので。)なると、終ひに彼は僕の意のある所を忖度し損じ、彼を僕が憎むかの如き誤解から罵倒を返して立ち去つた。以来龍太の行衛は不明であつたが、不図二三日前、三田の露路裏の質店の中で二人は顔と顔とを突き合せた。

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